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【文化】読書大好きフィンランド人!本と人を結ぶ図書館の役割や多彩なサービスとは?



(左から、ハンヌ・ヴァイサネン氏、ティモ・パルヴェラ氏、エンミ・イタランタ氏)


先月下旬、東京ビッグサイトにて開催された東京国際ブックフェアに、日本や東アジア地域とフィンランドの間に学術・文化面の架け橋を築き、交流を促進することを目標として活動するフィンランドセンターが初出展。東京国際ブックフェア初日となる9月23日に、フィンランド大使館内にあるフィンランドセンターにてメディア向けレセプションが開催され、フィンランドの読書文化や作家たちが紹介されました。

まずは、東京ビッグサイトで行われたブックフェアのオープニングセレモニーから大使館へと駆けつけたシウコサーリ大使が、「文学はフィンランドにとってとても大切なもの。日本で初めての公式な仕事が東京国際ブックフェアでとても嬉しい」と挨拶。大使は3人のパパ。来日したフィンランドの有名絵本作家、ティモ・パルヴェラ氏の作品を、3人の子供に読み聞かせしているそうです。


(9月に着任したばかりのユッカ・シウコサーリ駐日フィンランド大使)


図書館の年間貸し出し冊数も世界トップクラス。高い教育レベルを誇るフィンランドの背景には読書あり。文学、読書を愛する文化があるといいます。

フィンランドセンターに勤務する図書館司書のタパニ・ハッキネンが、フィンランドの読書文化傾向を解説。また、楽譜や絵画などの貸し出し、楽器を練習したり、作曲やビデオ編集などができるスペースがあったり、本の貸し出し回数によって図書館側が作家に印税を払う仕組みなど、図書館の多様なサービスを紹介。読書介助犬を導入したりと、日本にまだないような新しい試みもたくさん。驚きの貸し出しアイテムも!

また、今回のブックフェアのために、ハンヌ・ヴァイサネン氏、ティモ・パルヴェラ氏、エンミ・イタランタ氏のフィンランド人作家3名が来日。自著や作家活動について紹介してくれました。


■もっと読書を身近に!図書館はみんなのリビングルームへ

フィンランド人はとにかく読書が大好き。年齢問わず、国民に親しまれています。ジャンルとして人気なのは、ミステリーや手芸・料理といった実用的な本、児童文学など。本だけでなく、新聞もよく読むのだそう。プレゼントに本を選ぶことも多いようです。

世界的にも同じことが言えますが、若い世代の読書時間はやはり少し減少傾向。とはいうもの、e-literature(e-文学)を読んでいる人もいるため、全体の読書量はそんなに減っていないとか。

それでも、本を読む機会が減ってきているので、従来の堅苦しいイメージから、行ってみたくなる存在になるために、フィンランドの図書館ではさまざまな取り組みを考えています。ただ本を借りたりするだけでなく、ふらりと立ち寄って、一杯のコーヒーを飲むだけでもOK。人々のリビングルームになってもらおうとしています。

すでに存在する取り組みとして、移動図書館があります。バス、訪問型サービスなども。なんと、図書館ボートも一隻あるとのこと。楽器の練習ができる防音ルームを利用したり、雪の日にはスノーシュー、雨の日には傘や本が濡れないようにするためのバッグなどの貸し出しも。何か困ったことがあったら、図書館に行ってみよう、というほど、近い存在なのかもしれません。

また今回、ブックフェア会場でも紹介されたのが、読書介助犬(Lukukoira/ルクコイラ)。犬に読み聞かせするという活動です。シャイな子供や読むのが苦手な子供が、犬を聴き手に読み聞かせすることで、読書に自信が持てるようになるという効果を発揮しているそうです。


(フィンランドセンターに勤務する図書館司書のタパニ・ハッキネン氏)


■1冊借りると、15円の印税が作家に支払われる仕組み

フィンランドの図書館でとても興味深い点が、「1冊借りるごとに15円の印税が作家に支払われる」というシステム。さらに政府は、一人の作家に対して、年間平均7000ユーロの補助金を支払っているそうです。もちろん国民の税金から支払われることになるのですが、なぜそこまでして、作家を守るのでしょう?

タパニさんによると、「国の将来のためには、高レベルの教育を、というのが前提にあり、その高い教育レベルを維持するため」だといいます。フィンランドでは読書や文学に親しむことで、今のフィンランドが築きあげられています。それを生み出す作家活動は、国をあげて大切に守られているのです。

また、作家以外の他の職業にも、こういった補助金制度があるのかというと、作家であり、視覚芸術のアーティストとしての顔を持つハンヌさんが、「視覚芸術もそのくらい(約7000ユーロ)もらえる」とのこと。グループ展でも個展でも、活発に活動をしていることがわかり、申込みをして審査が通れば補助金が支払われるそうです。


人口約550万人しか話さないフィンランド語を、自国で大切に守る。文字を愛し、言葉に触れる文化が高い教育レベルを生み出しているという事実。さらに、現在活動する作家をしっかり支援し、フィンランド語を後世に伝えようとしています。機会があれば、高い活字文化を持つフィンランドの作品にも、ぜひ触れてみてはいかがでしょう。


<作家紹介>
●ハンヌ・ヴァイサネン氏
作家だけでなく、画家など、幅広い分野で才能を発揮するハンヌさん。作家活動をはじめるきっかけとなったのは、2000年にフィンランドの国民的叙事詩「カレワラ」の改訂本にイラストを提供したことから。「視覚芸術と文学という、異なる分野がうまく支えあっている」というハンヌさんは、「どちらか一つに集中している時に、パッともう一つのアイデアが浮かびあがってくる」といいます。

フィンランドの老舗テキスタイルメーカー「フィンレイソン」の今年の秋冬コレクションも手がけ、今年8月より現地の店頭にて発売中。日本でもアイテムを作る予定があるとか!9月の一ヶ月間は東京に滞在。文楽の脚本を手がけるため、10月から大阪に1ヶ月間滞在の予定。フランスに20年いたハンヌさんは、「フランス語で書いて、日本語にしてもらって、フィンランド語にもするよ」とのこと。

●ティモ・パルヴェラ氏
自身の作品が映画化、テレビ化、戯曲化されるなど、フィンランドで非常に有名な作家。「子供向けの本ではあるけれど、個人的には全ての世代の人々に書いているつもり」とティモさん。元小学校教師のティモさんは家族も(筋金入りの)教師ファミリー。自身が一番よく知っているという学校を舞台に、ユーモアを加え、年齢問わず、誰もが楽しめて一緒に笑いあえる本を手がけています。

●エンミ・イタランタ氏
ロンドン在住のフィンランド人作家。著書は2冊。「水の継承者 ノリア」(西村書店)は、未来の水がテーマとなっている作品。インスピレーションとなったのは日本の茶の湯文化。今回初来日し、京都の裏千家学園を訪れたとか。幼い頃に、フィンランド語に訳された「源氏物語」を読んでいた母の影響もあり、そこで日本の茶の湯文化というものに触れたといいます。


(2016年10月11日更新)
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