エストニアの悲しい歴史の中に放つ光
人々の強さと勇気と美しさを描いた作品
フィンランドを代表する映画監督として高い評価を受けるクラウス・ハロ監督作『こころに剣士を』。苦しい時代のエストニアを舞台に繰り広げられる実話から生まれた感動作です。
1952~53年頃、スターリンの死直前のエストニア。ハープサルというバルト海沿岸の小さな街がこの映画の舞台となっています。この国は、第二次世界大戦中はドイツに、末期からはソ連に占領されていました。ということは、ナチスからスターリンに変わるという、壮絶な歴史を経験しています。父親はいなくなり、母親は働きに出なくてはならないため、子供たちは放っておかれ、誰もが大声をあげることなく、ひっそりと暮らしていました。
そんなある日、ソ連の秘密警察に追われる元フェンシング選手のエンデル・ネリスが、郊外の小さな町の小学校の先生としてやってきました。エンデルはフェンシング教室を開くことになりますが、実は大の子供嫌い。フェンシングは「距離感が大切」と説くも、子供たちとの心の距離感は随分と遠い。しかし、子供たちが日々きらきらと輝かせる瞳に、エンデルも応えようとし、フェンシングに魅了された子供たちはみるみると成長していきます。
あるとき、子供たちから全国大会に出たいとせがまれたエンデル。開催地はレニングラード。大きな街へ行けば、秘密警察に捕まる可能性も。ここでエンデルは大きな決断を下します。
監督は『ヤコブへの手紙』のクラウス・ハロ。フィンランドを代表する映画監督として高く評価されており、長編作全5本のうち、本作を含む4本がアカデミー賞外国語映画賞フィンランド代表に選ばれています。また、2004年にはスウェーデンでイングマール・ベルイマン賞を受賞し、スウェーデン人以外の監督としては初受賞となりました。
ソ連、ドイツ、そしてまたソ連と変わり、強制連行におびえる暮らしを強いられてきたエストニア。1991年に再び独立したものの、そういった歴史を経験しているだけに、人々はソ連解体後も当時の恐怖を容易に忘れることができず、非常に警戒心が強いといわれます。
フィンランドもまた、スウェーデンとロシアという大国に挟まれ、暗黒の時代があります。エストニアの境遇や気持ちを理解できるフィンランドだからこそ、描くことのできた作品なのではないかと感じました。
エンデル役のマルト・アヴァンディは、エストニアでは知らない人がいないというほどのスター俳優。本国では主にコメディ作品で絶大な人気を得ている俳優だそうですが、本作では、親を奪われた子供たちと関わることで、人を愛し、信じる心を取り戻していく男を静かに繊細に演じています。心に響く子供たちの演技も必見。
バルト海、原生林、湿原と、エストニアならではの美しさも本作の魅力。静かな中にも物語が動いているところに、北欧映画の精神を感じます。
本作を手がける決め手になったのは、物語の脚本だとハロ監督。1940年、ソ連占領により、一晩で何千人もの人が国外に追放されるなど、家族がばらばらになってしまったエストニア。監督は、この作品を通じて、隠されたエストニアの美しさを伝えようとしました。
ちなみに、エンデルが始めたフェンシング教室。なんと現在でも続いているそうです。
子供たちは間違いなく、明日への希望、ですね!
『こころに剣士を』は、12月24日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開!
【ストーリー】
1950年初頭、エストニア。ソ連の秘密警察に追われる元フェンシング選手のエンデルは、小学校の教師として田舎町ハープサルに身を隠す。そこでは生徒たちの多くが、ソ連の圧政によって親を奪われていた。やがてエンデルは課外授業としてフェンシングを教えることになるが、実は子供が苦手だった。そんなエンデルを変えたのは、学ぶことの喜びにキラキラと輝く子供たちの瞳だった。なかでも幼い妹たちの面倒を見るマルタと、祖父と二人暮らしのヤーンは、エンデルを父のように慕うようになる。ある時、レニングラードで開かれる全国大会に出たいと子供たちからせがまれたエンデルは、捕まることを恐れて躊躇うが、子供たちの夢を叶えようと決意する。果たして彼らを待ち受ける予想もしない出来事とは?遂に、子供たちとエンデルそれぞれの戦いが始まる――。
こころに剣士を
監督:クラウス・ハロ
出演:マルト・アヴァンディ、ウルスラ・ラタセップ、レンビット・ウルフサク、リーサ・コッペル、ヨーナス・コッフ
原題:THE FENCER
フィンランド/エストニア/ドイツ合作 99分 カラー シネスコ
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
http://kokoronikenshi.jp/
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12月24日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー