HOME > What’s New > 2017年 > 2017年09月19日

【映画】ユーモアと温かさがじわりと迫る!アキ・カウリスマキ監督最新作『希望のかなた』(12/ 2公開)



2017年ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞したアキ・カウリスマキ監督待望の話題作『希望のかなた』が12月に公開されます。その見どころをご紹介!

シンプルでミニマルな手法で庶民をユーモアたっぷりに描き、日本でも人気を誇るフィンランドの巨匠、アキ・カウリスマキ監督。最新作『希望のかなた』は、フィンランド・ヘルシンキを舞台に、生き別れとなった妹を探すシリア難民の青年カーリドが、人生をやり直そうと始めたばかりのレストランのオーナー、ヴィクストロムや、ちょっと可笑しい従業員の仲間と出会い、未来を探していく物語です。

『ル・アーヴルの靴みがき』に続く、「難民三部作」の第二作目。

<本作は、『ル・アーヴルの靴みがき』(11)に続く「港町三部作」の二作目となる予定でしたが、その後、監督自ら「難民三部作」と変え、EU内での深刻でデリケートな難民問題を取り上げています。

これまでに、孤独を抱えた寡黙で無表情な人たちが繰り広げる物語が放つ不思議な魅力で多くのファンを惹きつけてきたカウリスマキ監督。今まさに起こっている難民問題という社会的な課題を反映した作品は珍しく、新鮮。風潮にもなっている“不寛容さ”に対しての疑問、憤りが感じられる内容になっています。

とはいえ、大切なメッセージを含みつつ、ユーモアを効果的に加え、物語に奥行きを出す演出はさすが!見どころとしてはまず、うまく行かないレストランを、流行っているという寿司屋に変えて、まずはやってみよう精神で見事失敗するというこの展開。(世界一臭いといわれるあの魚も登場?!)実はお客さん役の日本人の中に、筆者の知り合いの方がエキストラで出演しているというのを聞いていたので、個人的にもひっそりと楽しみにしていたシーン。日本のコントにも通ずる(?)シュールな演出がツボで、笑いをこらえるのが必死でした(笑)



ひとりじゃない。不器用であたたかな人々の交流が胸を打つ。

人物の描き方がこれまた魅力的。澄んだ大きな瞳の奥から情熱と誠実さを感じる主人公カーリドと、言葉少なで、どこか抜けているところはあるけれど、自分たちなりに何とかしてあげようとするフィンランド人たちとの交流が愛おしくてたまらない。そこには偽善なんて1ミリも感じない、不器用でマジメな交流に、真の人のぬくもりを感じます。

また、カウリスマキ監督作に欠かせないメランコリックな音楽は、本作でもふんだんに盛り込まれており、ストーリーの場面が変わるところで、色気のある、人間味あふれる歌声や弦楽器のメロディーが差し込まれているところも楽しみなポイント。登場する弦楽器はサイズや音色、形もさまざま。一つでも魅力的だけれど、一緒に奏でるメロディーはさらに素晴らしいものに進化。一人もいいけど、みんなもいい。そんなことを弦楽器たちが教えてくれているかのよう。日本語の歌も劇中で使用されているから面白い。

捨てる神あれば、拾う神あり。誰かがどこかで、互いに救い救われている。そんな希望が見え隠れしながらも、皮肉な現実もしっかりと伝えてくれる作品です。


主人公カーリドを演じたシェルワン・ハジ(右)と、妹役のミリアムを演じたニロズ・ハジ(左)


ちなみに、主人公カーリドを演じた、どこか俳優・山田孝之似(?)のシェルワン・ハジと、妹役のミリアムを演じたニロズ・ハジは実の兄妹だそう。シェルワン・ハジは、2010年にシリアからフィンランドに渡り、ショートフィルムの脚本や監督、インスタレーションの制作も行うアーティスト。劇中で伝統楽器サズの演奏を披露しています。

ところで、ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞後、記者会見で引退を示唆するような言葉を放ち、『希望のかなた』がアキ・カウリスマキ監督最後の作品になるのかと、メディアやファンの間で話題になっていましたが、どうやら記者会見での話は勢いだったようで、難民三部作の完結は幻となるかと思いきや、カウリスマキ監督は特に引退するつもりはないとのこと。(すっかり翻弄されてしまいました!)

『希望のかなた』は、12月、ユーロスペースほか全国順次ロードショー!

【ストーリー】
内戦が激化する故郷アレッポを逃れたカーリドは、逃避行の途中ではぐれた妹を探してヘルシンキに流れ着く。空爆で家も家族も失った彼にとって、唯一の望みは妹を見つけること。しかし難民申請は受理されず、収容施設を逃亡し、妹を探すために不法滞在者としてヘルシンキに留まることを決意する。差別や暴力にさらされるカーリドだったが、レストランオーナーのヴィクストロムに出会い、風変わりな従業員のいるレストランで働き始める。


希望のかなた
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン
2017年/フィンランド/98分/フィンランド語・英語・アラビア語/DCP・35㎜/カラー原題:TOIVON TUOLLA PUOLEN/英語題:THE OTHER SIDE OF HOPE
配給:ユーロスペース
© SPUTNIK OY, 2017
http://www.kibou-film.com/


12月2日(土)、渋谷・ユーロスペース他にて全国順次公開

▼予告トレーラー
『THE OTHER SIDE OF HOPE by Aki Kaurismaki (Official International Trailer) 』
https://youtu.be/3oPo45P_2go


▼引退を示唆した直後の記事
アキ・カウリスマキ監督、最後の作品でベルリン国際映画祭監督賞を受賞(北欧ニュース2017/02/21)
http://www.hokuwalk.com/Topic/page/page_id/022017022000015001/cat_id/3



(2017年09月29日更新)
このページの先頭へ