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【イベント】石や木、氷まで!自然と対話するノルウェーの音楽家、東京に隠れた音をどう奏でる?




2015年、氷の楽器で演奏するユニクロ「ヒートテック」のCMで日本でも話題となったアーティスト、テリエ・イースングセットが、東京公演(2/19&20の公演はすでに終了)のためにノルウェーより来日。先日、羽田空港の国際線ターミナル4Fの小さな江戸の街の雰囲気を感じる江戸小路エリア中央のステージ「江戸舞台」にて記者発表が行われたので、その模様をお届けします。


羽田空港の国際線ターミナル4Fの「江戸小路」


自然素材を使って演奏する唯一無二のパーカッショニスト


ノルウェーのベルゲンを拠点に活動するパーカッショニストのテリエさんは、30代まで、ロックやポップス、ジャズなど、あらゆるジャンルの音楽に携わってきました。すでにミュージシャンとしての実績がありますが、これまでとは違うことをやろうと、自然素材や歴史的に遺された部品を使って演奏するということを思いつきました。90年代には氷で楽器を作って演奏した世界で初めてのミュージシャンでもあります。

冬、春、夏、秋の4度来日し、40日間ほど東京に滞在。東京独自の自然素材や使われなくなった部品や金属を探し、見つけた素材で楽器に仕立て、大田区にてコンサートを開催するという「東京の音」の音楽プロジェクトに挑むテリエさん(※コンサートは9月の予定。詳しい日程と会場は後日)。このプロジェクトを初めて聞いたとき、新しいチャレンジができることを嬉しく思うと同時に、非常にワクワクしたといいます。この日、羽田空港国際ターミナルの「江戸舞台」に用意された素材で、ミニパフォーマンスを披露しました。




何でも楽器になりうる?!これから始まる東京素材探し


向かって右のテーブルが、テリエさんがノルウェーから持ってきた素材。両親の家にあった石だったり、工場の部品、自分で削って作った木の棒などがありました。これらを擦りあわせたり、弾いて響かせたり。「これはノルウェーの野生のヤギの角です」と放たれた音は深く響きわたり、会場の空気が変わるのを感じました。角は、「穴を開けただけでほぼそのまま」だそう。心地よく澄んだ美しい音色に思わずうっとり。「東京にはさすがに野生のヤギはいないかな?」とテリエさん。(さすがに奥多摩にも野生のヤギは・・・)


ヤギの角で演奏するテリエさん


左のテーブルが東京で集めた素材。素材探しはこれからなので、例として披露されていました。木材や竹、ガラスや工場で使われていた金属、石などがあり、この日、この素材たちとは初めて出合ったというテリエさんでしたが、石を石を合わせたり、木を響かせてみたり。東京の音もなかなか面白いものになりそう。考えてみたら、東京は都市部だけでなく、森林や川、八丈島や神津島といった島もあります。金属部品は大田区の工場のもの。八丈島は八丈砥石、神津島には高品質な黒曜石で有名だそう。テーブルには大きな美しい黒曜石がありました。




素材の魂に耳をすまし、魅力を最大限引き出してあげることが大切


これから東京で素材探しの旅を始めるテリエさん。すでにこんなものがあったらいいなとか、使ってみたい素材があるのかどうかという質問に、「大きな竹があれば楽器を作ってみたい。音が出るのかはわからないけれど。アート的なインスタレーションと楽器を組み合わせたものとしてやるとかね」と、想像する素材のアイデアは少しありつつも、「導かれるようにして素材と出合えたら」というテリエさん。前もって決めたり、準備はしたくないとのこと。いつでもオープンマインドで、あくまでも何が出てくるかを期待したい。そのときの出合いを大切にしたいようです。

もちろん、普通の楽器を演奏する技術と実績のあるテリエさんですが、普通の楽器と自然の素材で作られた楽器とではどんな違いがあるのでしょうか。自然素材のものは、同じ種類のものであっても、一つひとつ異なるため、同じトーンや音は出せません。「自然素材が持つ魂に耳をすまし、その素材の魅力を最大限引き出してあげるというところに面白味がある」といいます。




何日も何時間もかけて削って作った木の棒、1983年に見つかった口琴(日本でいうアイヌに伝わる楽器「ムックリ」のような)はノルウェーの農家から譲り受けたもの(音を出すのがものすごく難しいとおっしゃっていました)。

また、ノルウェーから持ってきた薄い石にもエピソードがあります。「これは私が山を歩いているとき、美しい石の声が聞こえました。偶然踏んで気づいたんです。石が私を見つけてくれました。きっと、一緒に東京に行きたかったのかもしれないね(笑)」と笑うテリエさん。一つひとつの素材に歴史と物語があります。




終始言葉を選びながら、ていねいに、穏やかに話すテリエさん。すでに15回ほどの来日経験があるとか。東京で楽しみにしていることを聞かれると、「これはいつもですが、人と食べ物ですね」と微笑むテリエさん。常にポジティブな驚きがあるようです。また、日本の音楽や人、伝統、自然など、新たな発見があるのを楽しみにしているそうです。

まったくのゼロからのスタート。演奏する楽器のない状態から、テリエさんは東京のどんなもので、9月にどんな音を奏でるのか。日本に住む我々もまた、未知の東京の音を心待ちにしたい。そこにはきっと、新しい発見とワクワクがあるはず。



【テリエ・イースングセット(Terje Isungset)】

1964年ノルウェー生まれ。ベルゲンを拠点に活動するパーカッショニスト。1999年にアイス・ミュージックを世界で初めて演奏。1980年代より木・石・金属などの自然素材をそのままの形で楽器にする演奏を探求し、氷を使うこと夢だった。1994年開催のリレハンメル冬季オリンピック委員会より、2000年のウィンター・フェスティバルの企画として、凍った滝でコンサートをするための作品制作を委嘱されたのをきっかけにICE MUSICに取り組むことになる。2005年、独立レーベルAll Ice Recordsを設立し、氷の楽器のみで演奏された音楽をリリース。2007年、アイス・ミュージック・ツアーを全世界で33公演開催。2017年のノーベル賞授賞式にて氷の楽器の演奏を披露。


【動画】
▼氷の楽器でのパフォーマンス
Terje Isungset & Lena Nymark. Glacier recording 2014.
https://youtu.be/QosfSaE0q7c


▼Mouth Harp(口琴)でパフォーマンスをするテリエさん
Terje Isungset: "Mørk Bark" at UCI 2017 Road World Champoiniships closing seremoni
https://youtu.be/vrpQa-8WW1I



(2018年02月27日更新)
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