舞台は、人口約80人のグリーンランド東部の村。デンマーク語を教えるために、本国デンマークから小学校に新人教師アンダースが赴任してきます。騒ぐ児童たちに手こずり、価値観や考えの違いから、村の人々にも受け入れてもらえないアンダース先生。
実は、家業の農場を継ぐか迷いながら、先生になるため、遠いこの小さな村での暮らしを選択。半ば逃避状態でやってきたことに、考えが甘かったと頭を抱えます。しかし、村の人々や子供たちとの交流を通して、文化も言語も異なる地で、強くしなやかに生きる術を教えてもらいながら、少しずつ考え方が変わっていきます。
▼グリーンランドとは?
面積は日本の約6倍。東京ドームの収容人数とほぼ同じ約56,000人が暮らし、大地の80%以上が氷に覆われた世界一大きな島。旧デンマーク植民地。デンマーク領だが自治政府を持つ。独立を目指して自立性を高めている。主人公の教師から村の人まで、登場人物は全てご本人!
偶然キャッチした新人教師赴任の話を題材に物語を制作。
監督は、初短編作「Du soleil en hiver」(05)で第58回カンヌ国際映画祭SACD賞を受賞し、その後、初の長編作「L'apprenti」(08)で第65回ヴェネチア国際映画祭国際批評家週間作品賞を受賞したフランスの俊英サミュエル・コラルデ。
2015年にはじめてグリーンランドを訪れたコラルデ監督は、雪や氷に覆われ、遠く離れたこの世界に魅了されました。首都ヌークだとほぼデンマークにいるときと同じような生活ができるようですが、生活に必要なことをシンプルに、心豊かに暮らす東部のチニツキラーク村の人たちとの出会いによって、ここでの撮影を決めたそうです。
撮影前、コラルデ監督は、数ヶ月にわたり3回チニツキラーク村に滞在。村の人々の生活リズムのなかで共に暮らし、徐々に村人たちから受け入れられるようになったとか。ちょうどその時、デンマークから新人教師が村の小学校に赴任するという話を聞いた監督は、その青年を中心とした物語を撮ることに。撮影期間1年で完成させました。
なんと、主人公の教師アンダースをはじめ、村の子供たちや猟師など、登場人物は全て本人自身が本人を演じています。実在する人物たちによるドキュメンタリーとフィクションが混ざりあったリアリティのある内容。ドキュメンタリー要素の詰まったフィクション作品は「ドキュフィクション」と呼ばれ、コラルデ監督はそれを得意とする監督です。
また、シーンの随所に見られる、一面の氷の大地や海に浮かぶ流氷、雄大なフィヨルド、オーロラなど、息を吞む美しい絶景も必見。撮影監督としても活躍するコラルデ監督のシロクマ親子やクジラの群れなどの野生動物ショットなども大きな見どころです。
グリーンランドの圧倒的な風景、登場人物全員が本人を演じ、しかも、デンマークという言葉も文化も考え方も全く異なるところから先生が赴任してくるというのも全て現実。ヨーロッパからやってきた先生との噛み合わない感じ、温度差などもよく表れていました(心折れまくりの先生にエールを送りたくなる!)。ここならではの知恵や風習、暮らしぶり、考え方なども、とても興味深く見入ってしまいました。
▼オーロラにまつわるグリーンランドでの言い伝え「口笛を吹くと、オーロラが近づいてきて、捕まえられる」「オーロラに向かって口笛を吹くと、死者と繋がることができ、パチパチと音をたてて答えてくれる」など!劇中で色々教えてくれる猟師のトビアスの言葉にもぜひ耳を傾けてみてください。
不便そうに見えても、時間がかかっても、暮らし方や考え方全てに理由がある。自然や動物に敬意を払いながら、シンプルにていねいに生きること。私たちが見失いがちな大切なことに気づかせてくれる映画です。
雪が降ろうとも、朝真っ暗でも、ソリに乗って元気に通学し、遊具で大はしゃぎする子供たちのキラキラとした目や弾む声、笑顔に会いにいってみてくださいね。『北の果ての小さな村で』は、7月27日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開!
【ストーリー】北極に位置するグリーンランド東部の人口わずか80人の小さな村チニツキラークに、デンマークから28歳の青年教師アンダースが、子どもたちにデンマーク語を教えるために赴任。家業の農場を継ぐか否か、迷った末の“自分探し”の選択だったが、そんな甘い考えはすぐに打ち砕かれる。言語、習慣の違いで授業はままならず、考え方の違いから村人からは孤立気味。そして想像以上に過酷な自然…。そんな時、狩猟のために学校を休んだ児童の一人アサーの家を、叱責するつもりで訪ねたアンダースは、少年の祖父母から様々なことを教えられることになる。それはこの地で暮らす者に必要な生活の知恵だけでなく、しなやかに強く生きていくための哲学でもあった。
北の果ての小さな村で
監督・撮影・脚本:サミュエル・コラルデ
脚本:カトリーヌ・パイエ
音楽:エルワン・シャンドン プロデューサー:グレゴワール・ドゥバイ
出演:アンダース・ヴィーデゴー、アサー・ボアセン、チニツキラーク村の人々
2017年/フランス/グリーンランド語、デンマーク語/94分/原題:Une année polaire(英題:A POLAR YEAR)
配給:ザジフィルムズ
http://www.zaziefilms.com/kitanomura/
▼映画『北の果ての小さな村で』予告|2019/7 公開
https://youtu.be/DsjIAi8nwlcⓒ 2018 Geko Films and France 3 Cinema
7月27日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー