講演者のペールエリック・ヘーグベリ スウェーデン大使(左)と、ファシリテーターを務めた松尾恵美子人事院事務総長(右) ※ライブ配信より
先日、スウェーデン大使館にて、人事院によるオンラインでの国際講演会「スウェーデンにおける公務員の働き方~コロナ禍での現状も踏まえ~」が開催されました。
人々の生活様式に多くの変化をもたらした新型コロナウイルス感染症。緊急事態宣言などにより、在宅勤務やオンライン会議を取り入れるなど、日本でも働き方に大きな変革が求められるようになりましたよね。
そんな中、新型コロナウイルス感染症の感染拡大以前から、リモートワークや男性の育児休業取得促進などの柔軟な働き方を進めているスウェーデン。公務における働き方という観点から、同国ではどのように対応しているのでしょうか。ペールエリック・ヘーグベリ スウェーデン大使のお話を聞いてきました。
■コロナ禍で働き方は変わったか?日本では、今回のことでテレワークを初体験する職員もいて、職場に来て働かなければならないといったことからの意識改革のきっかけになったり、趣味や家族との時間を持てたといったメリットもあったとヘーグベリ大使。
しかし、メリットばかりではなく、職場の人とのコミュニケーション不足にも陥ったという人も。これは民間企業でテレワークをしている人にも思い当たる節があるのではないでしょうか。
スウェーデンでは、すでにテレワークに慣れてきてはいたものの、コロナによってより推進された部分もあるとのこと。すでにテレワークをしていた労働者は約5%いて、2018年には約15~30%に増加。2019年には時々テレワークをしているという人は約30%。過半数の人たちはテレワークをしたことがなかったという状況だったそう。
コロナ禍に約35%がテレワークを実施しており、そのまま継続したいという人もいる一方で、「人とコミュニケーションをしてこそ、クリエイティビティが形成されると思う。そういったことが阻害されていると思う」と懸念事項を挙げていました。
例えば、スウェーデンで大切にされているコーヒーブレイク「FIKA(フィーカ)」。休憩を取って仕事から離れること、会議の内容ではなく、映画の話や世間話など、10~15分ほど休憩することが大切。FIKAを取るという規則が法律であるわけではないけれど、新しいアイデアが生まれるきっかけにもなる大切な時間だといいます。
ただ、このような世の中になり、「悪いことばかりではなく、学ぶことも多く、その学んだことを生かして人生に情熱を注いでいければいいのではないか」と話しました。
Photo by Lena Granefelt/imagebank.sweden.se
■柔軟な働き方を推進するスウェーデン公的機関での日本での育児休暇取得率は上昇しているものの、女性の取得率がほぼ100%に対し、男性は20%を超えたところ。これが民間企業となると、女性約80%、男性約7%といったところ。
日本で働きやすい職場環境の実現を目指すために、霞が関では、男性の育児休暇取得率を上昇させるべく、育児休暇取得率90%超えのスウェーデンの育児休業中のパパの写真展をモチーフにした霞が関のパパたちの写真展を開くなど、男性の育児休暇取得を促進しています。
スウェーデンでは、約10年前くらいから女性の公務員が増え、政府における女性リーダーの割合、官僚トップの女性が40%超えています。民間、上場企業または企業トップが女性というのは公務員よりは少ないものの、徐々に増えてきているそう。
女性の登用率が高いのは、女性を登用するのが社会にとって良いことだということに気づくのが世界でもスウェーデンが早かったというのが理由の一つ。また、移民のバックグラウンドを持つ公務員の割合も3分の1に増えてきました。
コアタイムは職場にいなければならない時間ですが、時間は自分で管理可能。規制されていない労働時間、信頼されている時間、“トラストタイム”があります。「信頼は責任を伴う。上司は部下を信頼する、部下は責任を持ってやる」という考え。
残業はないわけではなく、女性より男性のほうが残業をしており、実際には5人に1人が残業をしているそう。しかし、1カ月で50時間以上働いてはならないという規則があります。スウェーデンもさまざまなことを克服して今があるといいます。
スウェーデンにも課題があり、ジェンダーに由来するものもまだまだ完全には至っていません。それは賃金格差。2018年で、男性と女性の間では、10.7%の賃金格差があるそうです。
※画像はイメージ Photo by Magnus Liam Karlsson/imagebank.sweden.se
■出産休暇から育児休暇を取り入れた世界初の国給与のほぼ90%が保証されるスウェーデン。父親と母親の育児休業をシェアしようという動きは非常にゆっくりだったそうです。育児休暇の90日はパパが取得しなければならず、これをママに譲渡は出来ません。取得しなければ消滅してしまうというルールになっています。
育児休暇を取得した元大使館勤務のヨハネス・アンドレアソンさんの体験談も聞きました。
子供が小さい頃は二度と帰ってこないのだからと、職場の人に強く取得を勧められたというアンドレアソンさんは、職場に復帰したときのことを、「同じ経験を共有できるというのは大きなメリット。子供と過ごした時間は本当に素晴らしく、復帰したときに良い効果をもたらし、子供との絆が強くなると思う。これが一番」と話していたのが印象的でした。
また、職場復帰の際は、経験に見合った職位、職場に戻ることができ、(これが民間ではわからないけれど)公的セクターで不利なことは全くなかったとのこと。育児休暇を取得したからといって、差別することは出来ません。
9~15時までは勤務時間、あとは柔軟に。朝早いのが良い人は7時半から始めて、早く終えることも可能。コロナ禍でテレワークは働き方に柔軟性を生み、柔軟な選択肢を持てたことは良かった点だと話していました。
ペールエリック・ヘーグベリ スウェーデン大使 ※ライブ配信より
■スウェーデン人の働き方に対する考え方「日本では仕事を人生の最優先にしてしまっている人がいるというのを聞きますが、スウェーデンではそうではなく、家族や友人との時間、自然に触れる時間、文化的な時間を大切にし、生きるために働きます。働くために生きているわけではありません」とヘーグベリ大使。
スウェーデンでは、早い段階で以下のことを教えられるそうです。
①理論をそのまま信じるのではなく、言われたとおりやるわけではないということを学ぶ。
②福祉国家で、独りぼっちではない、サポートがあるということ。
➂失敗することが許されている、もう一度挑戦できるということ。
④情熱を追求すること。
⑤草の根から起こる活動を実行する市民的社会であること。
柔軟な働き方が進められてきたスウェーデン。それは一朝一夕で現在のような社会になったのではなく、様々な取り組みを行い、スウェーデンもまた、課題を克服してきた経緯があります。ヘーグベリ大使の話から、“働き方に対する考え方”なども知ることができた機会になりました。