今年1月下旬に開催されたサンダンス映画祭のワールドプレミア上映で、美しくも不穏な世界観で世界を驚愕させたという作品『ハッチング―孵化―』。3月4日に本国フィンランドで公開され、日本では4月15日の公開が決定している注目作です。
絵に描いたような幸せな家族の本当の姿を、
少女が孵化させた卵が浮き彫りにしていく。
舞台は、フィンランドの緑あふれる森の住宅地。ファンシーな花をあしらった壁紙や愛らしいインテリアでデコレーションされた家に住んでいるのは、12歳の少女ティンヤと、幸せな暮らしぶりを動画で配信することに夢中な母、温厚な建築家の父と弟の4人家族。器械体操に励むティンヤは、母親を喜ばせるために全てを我慢して自分を抑え、体操の大会で優勝を目指す日々を送っていました。
ある晩、森で奇妙な卵を見つけるティンヤは、家族に秘密にしながら、その卵を自分のベッドで温めます。その奇妙な卵は次第に大きくなり、ついに孵化。それをきっかけに、ティンヤの周りで恐ろしい事件が次々と起こりはじめ、家族の真の姿が浮き彫りにされていくという話題作です。
主人公の少女ティンヤを演じるのは、1200人のオーディションから選ばれた、シンクロナイズドスケート（フィギュアスケートの一種）の選手でもあるシーリ・ソラリンナ。母親を喜ばせるために自分の気持ちに封をして我慢する少女という、この年代特有の儚さやあやうさを見事に好演しています。また、母親役は、フィンランドで数多くの作品に出演するソフィア・ヘイッキラ。理想の家族像を作り上げ、娘を所有物として扱う自己中心的な母親を演じています。
監督は、多くの短編作品を世界の映画祭に出品して高い評価を受け、今回が長編デビュー作となる新鋭女性監督のハンナ・ベルイホルム。ホラージャンルの作品で定評のあるベルイホルム監督は、“一見幸せそうに見える家族の中に潜む恐怖”を見事に表現しています。美しいフィンランドの町の背景、明るく、美しい北欧インテリアに包まれた家を舞台に、浮かび上がる闇や恐怖との対比に注目です。
美しく明るい環境で起こる恐怖を表現する
プロダクションデザインも大きな見どころ。
難しい役どころを、初めてながら素晴らしいクオリティで好演したティンヤ役のシーリ・ソラリンナの演技やストーリー展開など、見どころ満載の本作ですが、この映画を彩る大きな特徴と魅力の一つとして挙げられるのが、美しい北欧に潜む恐怖を表現したプロダクションデザイン。
ホラー特有の恐怖の舞台が“暗闇の中”ではなく、“ロマンチックな北欧スタイルに装飾さ
れた明るい部屋”であること。全てが柔らかな光の下にあり、愛らしいワンピースに、パステルカラーのインテリアやバラの花など、誰もが羨むような完璧なお家のイメージを示すために、インテリアは母親がデザインした設定になっています。暗闇の重苦しい雰囲気ではなく、あえて美しく明るい環境で起こる事件は、ある種、不気味かつ、恐怖をあおってきます。
また、ティンヤが卵から孵化させる“ある存在”の造形にも注目です。なんと、ハリウッドの一流スタッフが集結して作り上げたもので、CGはほとんど使われていません。『スター・ウォーズ』新三部作や『ジュラシック・ワールド』、『プロメテウス』を手掛けたグスタフ・ホーゲンが、アニマトロニクス・デザイナーとして参加し、二度にわたるアカデミー賞ノミネート経験を持つコナー・オサリバンが特殊メイクアップを担当。本作を際立させる印象的なビジュアルを完成させました。卵から孵化した“ある存在”は、怒り、攻撃性、障害、悲しみ、愛されたい欲求という、“ティンヤの母親が娘に持って欲しくないものを全てを持つ存在”として描かれています。
『ぼくのエリ 200歳の少女』『ボーダー 二つの世界』に次ぐ、北欧発の新たな傑作ホラーと評される『ハッチング―孵化―』は、4月15日（金）、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他にて全国順次公開！
ハッチング―孵化―
監督：ハンナ・ベルイホルム
出演：シーリ・ソラリンナ、ソフィア・ヘイッキラ、ヤニ・ヴォラネン、レイノ・ノルディン
配給：ギャガ
原題：Pahanhautoja／英題：／2022年／フィンランド／カラー／ビスタ／5.1chデジタル／91分／字幕翻訳：中沢志乃／PG12
https://gaga.ne.jp/hatching/
© 2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst
2022年4月15日（金）、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他にて全国順次ロードショー
