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【セミナーレポート】子どもから大人まで、世界が注目!ノルウェーのグラフィックノベル。その魅力とは?



Nora Dåsnes ノーラ・ドースネスさん(作家)
Malin Falch マーリン・ファルクさん(作家)
Hans Jørgen Sandnes ハンス・ヨルゲン・サンドネスさん(作家)

先日、駐日ノルウェー大使館で開催されたセミナーにオンラインで参加しました。テーマは、近年注目度が増している「グラフィックノベル」について。個人的にグラフィックノベルというジャンルは、ほぼ無知状態なのですが、皆さんはご存知ですか?

グラフィックノベルは、文字が少なめの、フルカラーのイラストで展開される本。小説のような文字数はなく、フルカラーはアメリカンコミックのルーツを感じるけれど、日本の漫画のような白黒でもない。人権、環境、貧困、性など、ちょっと難しそうな社会的テーマから、デリケートで声に出しにくいようなテーマまで、カラフルなイラストで一気に読めるというのが魅力。新しい本のジャンルとして、注目されています。

日本では、まだそんなにメジャーではないグラフィックノベルですが、ノルウェーでは高い注目を浴びているそうです。ノルウェーのグラフィックノベルは、子ども・ヤングアダルト向けから、より社会性、芸術性の高い大人向けの作品までバリエーションに富み、近年人気を博しているのだそう。

セミナーでは、グラフィックノベル作家3名とエージェント、NORLA(ノルウェー文学海外普及協会)の担当者が来日し、ノルウェーのグラフィックノベルの作品とその特色を紹介。さらに、ノルウェー語翻訳者も登壇し、ノルウェー文学の特色や強み、どんな内容の作品があるのか等を話してくれました。また、日本の出版社も、日本おいての書籍の状況、グラフィックノベルの展開について触れました。



■ノルウェーのグラフィックノベルには、どんな作品がある?



まず、NORLA(ノルウェー文学海外普及協会)のアンドリーネ・ポレンさんは、現在、徐々にノルウェーの文学が世界中の言語に翻訳され、世界へ広がりを見せているといいます。その原動力になっているのは、ノルウェーのしっかりとした翻訳出版助成制度の存在。その制度に、グラフィックノベルも対象になっているので、グラフィックノベルも増えつつあるそうです。

もともと関心は高かったようですが、助成の対象になったことでグンと広がった模様。国外から入ってきたグラフィックノベルにも刺激を受けて、自国でも作られるようになってきました。

きっかけとなったのが、2019年のフランクフルトでのブックフェア。ノルウェーの作品が多くの注目を集めたそうです。フィクションからノンフィクション、グラフィックノベルへと、取り扱う数字が変化しているそうです。



■日本でのノルウェー文学の印象は?取り扱い状況など



ノルウェー語翻訳者の佐脇千晴さんは、ノルウェーの児童書を日本の出版社に紹介する際、「暗い」「かわいそう」「もっと明るいものはないか」と、よく言われたそうです。でも、ノルウェー文学の「その“暗さ”が魅力」だと佐脇さん。

“暗さ”を乗り越える“強さ”も持ち合わせるノルウェー。子ども向けの児童書でも、出来ることなら耳を塞ぎたくなるようなタブーに、果敢に挑んでいる作家もたくさんいるそうです。

また、ノルウェーの児童書は、子ども目線で書かれていたり、子どもが聞いてくるようなデリケートな内容が書かれているものもあり、大人にとっても、手助けになるような本が多くみられるそうです。

日本での本の状況について、高野麻結子さん(河出書房新社 編集者)によると、出版部数の減少、活字離れも進み、本の売り上げ自体は下がっているものの、グラフィックノベルという分野には少しの期待と希望の光を感じている様子。やはり、声に出して取り上げにくい「依存症」だったり「貧困」というテーマのグラフィックノベルは一定数の売り上げがあったのだそう。

近年、河出書房新社でも、北欧の書籍を扱うことが少しずつ増えてきたようで、近いところでは、枇谷玲子さんの翻訳による、『歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術』(トマス・エスペダル著 枇谷玲子訳 河出書房新社)が、2月25日(予定)に発売されます。

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■注目のノルウェー作家来日!グラフィックノベル作品を紹介



Nora Dåsnes(ノーラ・ドースネス)さん

ピンクの表紙の『Regenbogentage/Cross My Heart and Never Lie(英語版)』や『Haende weg von unserem Wald!』などが代表作。『Cross My Heart and Never Lie』は、大人たちのいいなりにはならない、はっきりと伝えていこうという、大人たち顔負けの環境保護活動についての話。環境保護活動について、子ども達にもわかりやすく書かれています。

ノーラさんが書くときに気をつけていることは、大きなテーマや主人公に、どれだけ共感できる部分を持つことができるかということだそう。

https://www.noradasnes.com/

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Amazon.co.jp: Cross My Heart and Never Lie (English Edition) 電子書籍: Dåsnes, Nora, Bagguley, Matt: 洋書
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Malin Falch(マーリン・ファルク)さん

代表作は、ノルウェーの子どもたちに大人気の『Nordlicht(オーロラ)』。主人公ソニアが出会った別世界のものたちを通じて成長していく物語で、これは、マーリンさんがアメリカのアートスクールに通っていた頃の課題から生まれた作品。

マーリンさんは、日本の漫画やアニメからもインスピレーションを受けているそうで、画風にもそのような雰囲気が垣間見えました。ジブリ、特に宮崎駿氏よりインスピレーションを得ているとのこと。

『Nordlicht』には、ノルウェーの自然も色彩豊かに描かれており、ノルウェーの文化を知ってもらいたいとの思いから、ノルウェーの絵画作品なんかも、背景にさりげなく仕込んでいるそうです。トロールやヤギも、ノルウェーの民話によく登場するキャラクターです。

現在、6冊まで出ていて、10冊まで出したいというマーリンさんは、「力強い形で終わらせたいです。最終的には映画化。数年後には見ていただけるのではないかと思います」と話していました。

https://www.instagram.com/malintfalch/
https://twitter.com/malintfalch

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Hans Jørgen Sandnes(ハンス・ヨルゲン・サンドネス)さん

ノルウェーで人気の探偵シリーズの作者で、ノルウェー語翻訳者の佐脇さんによると、「学校の教材かと思うほど、どこの家にもあります!」とのこと。ハンス・ヨルゲンさんはこの本の挿絵を担当されているとか。作家であり、アニメーターでもあります。

自分の経験をもとに描きたいと思ったグラフィックノベル『KRYPTO』は、6巻まで出ており、10巻まで出す予定。この物語をやっていて最も楽しいことの一つは、シーモンスター(怪物)のキャラクターを考えること。また、子どもたちにシーモンスターを描いてもらうコンペも実施し、次の巻に登場させたいそうです。

https://hjsandnes.wordpress.com/

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■本を子供たちに楽しんでもらうために実施している活動とは?



ノルウェーでは、ミュージシャンや作家などが、国内のさまざまな学校に行って、作品の解説や紹介をするといった活動があるそうです。内容は最後までは話さず、もし興味があったら、どこどこで手に入ると伝えているそうです。


そういった活動を通じて、子どもたちにワクワク感を伝えられるし、彼らの反応や意見を聞くことができます。本を一緒に体験する、一緒に読む、週末に200人くらいを集めて本の話をするといった内容です。



■グラフィックノベルは、漫画やコミックとどう違う?



コマ割りがしてあって、吹き出しやセリフのような文章が書かれたスタイルのグラフィックノベルは、コミックや漫画とどう違うのか。馴染みの深い漫画やアニメで育った日本人にとって、非常に区別が困難かもしれません。

(日本の漫画のように、白黒の作品も作ってみたいという作家さんもいらっしゃいましたが)作家さんからは、グラフィックノベルの魅力は色彩にあるというお話がありました。例えば、過去(回顧シーン)は赤で描かれ、現在は青で描かれているなど、ストーリーを伝える上で、色というものは、非常に重要な要素だそうです。

3名の作家の作品のリンクを貼っているので、興味のある方はぜひチェックしてみてはいかがでしょう。



▼海外のグラフィックノベルを楽しめるカフェ!
まだあまり日本に出回っていない海外のグラフィックノベルを、いきなり購入するのはハードルが高いですよね。こちらのブックカフェでは、店内で読むことができるそうです。セミナー内で紹介されていた大阪・谷町六丁目にあるブックカフェ「書肆喫茶mori(ショシキッサ モリ)」さん。素敵な雰囲気なので、行ってみたい!

書肆喫茶mori(ショシキッサ モリ)
https://bookcafemori.thebase.in/




(2023年02月22日更新)
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