6月24日より、東京都庭園美術館にて、「フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン」が開催されています。会場の東京都庭園美術館は、今年の10月1日で開館40周年目という記念の年になります。
展覧会は、1930年代の台頭期から1950年代に始まる黄金期、フィンランドのデザイナーによる「アートグラス」(デザイナーが手掛けたガラス製品の中でも芸術的志向の高いプロダクト)に着目しており、見ごたえのある作品がずらり。庭園美術館との調和も素晴らしく、取材しながら何度も、感嘆の声が漏れそうになりました。
ルネ・ラリックのガラスレリーフがエントランスで出迎えてくれる庭園美術館は、和と洋がミックスされた和風アール・デコのデザインが魅力。そんな庭園美術館ならではの装飾や雰囲気の中で、フィンランドのグラスアートはどんな表情を見せてくれるのでしょうか。
先駆けて開催されたプレス内覧会では、本展の出品作品を所蔵する実業家でコレクターのキュオスティ・カッコネン氏が登場。フィンランドの陶芸やガラス作品を中心とした世界的なコレクターで、本展でも見られる「コレクション・カッコネン」は、フィンランド国内の多くの美術館に出品されています。
ご夫婦で来日したカッコネン氏は内覧会当日に日本に到着し、長旅で疲れているにも関わらず、展覧会で披露されている8名のデザイナーや作品について解説してくれました。
■コレクションを始めたきっかけは、アルヴァ・アアルトの「サヴォイ」ベースフィンランドの陶芸やグラスアート作品をコレクションし始めたきっかけとなった作品は、1930年代のアルヴァ・アアルトの「サヴォイ」だったとカッコネン氏。そこからフィンランドデザイナーによる陶芸やグラスアート作品を収集し、日本はもちろん、スペインやドイツ、チェコなど、海外でも紹介しています。
(左)アルヴァ&アイノ・アアルト《フィンランディア》1937年 イッタラ・ガラス製作所
(右)アルヴァ&アイノ・アアルト《サヴォイ》1937年 カルフラ・ガラス製作所
フィンランドのグラスアートは、自然から受けた影響が顕著にみられるといいます。カッコネン氏は、特に、タピオ・ヴィルッカラの作品「氷上の釣りの穴」を指して説明をしました。これは、1970年のウルホ・ケッコネン大統領の70歳の誕生日に作られたもので、非常に緻密に氷のディテールが表現されています。
(左)タピオ・ヴィルッカラ《氷上の釣り穴 1970/1975》1975年 イッタラ・ガラス製作所
(右)タピオ・ヴィルッカラ《アメリカン・ヴァーズ/ブレジネフ・カップ》1972年 イッタラ・ガラス製作所
実はカッコネン氏、氷上の釣りの穴はこんな感じなのかどうかを、冬の寒い日に実際に娘さんと見に行ったことがあるのだとか。自然が作り上げたアートは、「(タピオ・ヴィルッカラの作品と)本当に全く同じだった」というエピソードまで披露してくれました。
カッコネン氏は、日本の美術館と、何年も仕事を一緒していることを明かし、「フィンランドと日本はともに、繊細な感覚を持っていると思います。これからも良い関係が続くことを願います」と笑顔。「良い夏になりますように」「ドウモアリガトウ」と日本語で締めくくりました。
内覧会当日は、カッコネン夫妻(右から3人目と4人目)の結婚記念日だったとのことで、メディアから温かい拍手が沸き起こっていました!
■パネルや照明などで工夫し、8名の作家を調和させるイメージで展示「フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン」は全国巡回展。それぞれの会場の特性や空間を生かした展示になるということで、庭園美術館では、“和風アール・デコ”のインテリア空間の中で、8名の作家の作品を上手く調和させようと試みました。窓からの自然光のほか、グラスアートにLEDの照明を当て、ガラスの表面が浮かび上がって見えることで、より好奇心をそそる展示になっています。また、展覧会の期間が夏休みに差し掛かり、子どもたちの来場も見られるということで、フィンランドの雰囲気を伝えるために、大きな風景パネルも設置されています。
緑に囲まれた庭園美術館の涼しい館内で、フィンランドからやってきたグラスアートを楽しむことができる「フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン」は、9月3日まで開催中!
1階から2階に上がったところにあるカイ・フランク作品とディスプレイされたパネル
<アルヴァ・アアルト/アイノ・アアルト>アルヴァ&アイノ・アアルト《アアルト・フラワー》1939年 カルフラ・ガラス製作所
<グンネル・ニューマン>(左)グンネル・ニューマン《賢明な乙女たち》1937年 リーヒマキ・ガラス製作所
(左から2つ目)グンネル・ニューマン《花輪》1937年 リーヒマキ・ガラス製作所
(中央:サンドブラスト&エッチング)グンネル・ニューマン《家族》1937年 カルフラ・ガラス製作所
(右)グンネル・ニューマン《魚》1937年 カルフラ・ガラス製作所
(左手前)グンネル・ニューマン《カラー》1946年 リーヒマキ・ガラス製作所
<カイ・フランク>(左)カイ・フランク《掃く人》1946年 イッタラ・ガラス製作所
(左から2番目)カイ・フランク《ヨーロッパブナ》1953年 ヌータヤルヴィ・ガラス製作所
(右)カイ・フランク《シャボン玉》1951年 ヌータヤルヴィ・ガラス製作所
(左)カイ・フランク《クレムリンの鐘》1956年 ヌータヤルヴィ・ガラス製作所
(中央)カイ・フランク《アートグラス、ユニークピース》1970年代前半 ヌータヤルヴィ・ガラス製作所
(右)カイ・フランク《プリズム》1953-56年 ヌータヤルヴィ・ガラス製作所
<タピオ・ヴィルッカラ>タピオ・ヴィルッカラ《パーダルの氷》1960年 イッタラ・ガラス製作所
(左)タピオ・ヴィルッカラ《アートグラス》1968年 イッタラ・ガラス製作所
(中央)タピオ・ヴィルッカラ《ユリアナ》1972年 イッタラ・ガラス製作所
(右)タピオ・ヴィルッカラ《大理石》1967年 イッタラ・ガラス製作所
<ティモ・サルパネヴァ>ティモ・サルパネヴァのアートグラス作品群
ティモ・サルパネヴァ《夢へのゲートウェイ》1981年 イッタラ・ガラス製作所
<オイヴァ・トイッカ>オイヴァ・トイッカ《知恵の樹、ユニークピース》2008年 ヌータヤルヴィ・ガラス製作所
オイヴァ・トイッカ《松の樹、ユニークピース》1970年代中頃 ヌータヤルヴィ・ガラス製作所
オイヴァ・トイッカ《シエッポ》1971年 ヌータヤルヴィ・ガラス製作所
※現在までに1000種類を超えて続く《バード・バイ・トイッカ》シリーズの始まりといわれる作品。
<マルック・サロ>(右手前)マルック・サロ《歓声と囁き、ユニークピース》1998年 ヌータヤルヴィ・ガラス製作所
(左奥)マルック・サロ《アートグラス、ユニークピース》2017年 ラシコンッパニア
新館ギャラリー1では、オイヴァ・トイッカ、マルック・サロ、ヨーナス・ラークソの作品を展示
<ヨーナス・ラークソ>(右)ヨーナス・ラークソ《寿司》2015年 ラシスミ
※2015年に上海で一流の寿司屋を訪れたラークソ。寿司にインスピレーションを受けて制作。
(左端)ヨーナス・ラークソ《アノニマス》2017年 グラスヒュッテ・ゲルンヘイム(ドイツ)
ヨーナス・ラークソ《リコリスみたい》2012年、2013年 ラシスミ
※当時8歳だったラークソの息子さんが「リコリスみたい」と言ったことが作品タイトルに。
フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン期間:2023年6月24日(土)~9月3日(日)
時間:10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
7/21、28、8/4、11、18、25は21:00まで夜間開館(入館は20:30まで)※サマーナイトミュージアム2023については
こちら休館:月休 ※7/17(月・祝)は開館、7/18は休館
会場:東京都庭園美術館本館+新館
https://www.teien-art-museum.ne.jp/▼オンラインによる日時指定制。詳細は展覧会ページまで
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/230624-0903_FinnishGlassArt.html<今後の巡回先(予定)>山口県立萩美術館・浦上記念館 2023年9月16日(土)~12月3日(日)
岐阜県現代陶芸美術館 2023年12月16日(土)~2024年3月3日(日)
兵庫陶芸美術館 2024年3月16日(土)~5月26日(日)
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