2014/02/17

【特集】ミカ・カウリスマキ監督「ファーザーズ・トラップ 禁断の家族」鑑賞レビュー@TNLF2014

北欧映画祭「トーキョーノーザンライツフェスティバル2014」
期間:2014年2月8日~14日
会場:渋谷ユーロスペース他

フィンランドのミカ・カウリスマキ監督作品
「ファーザーズ・トラップ 禁断の家族」
(2011年/フィンランド/フィンランド語/90分/原題:Veljekset/Brothers)


今年はフィンランド代表として、トーベ・ヤンソン特集に注目が集まりましたが、デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・アイスランドと、非常にバランスよく、クオリティの高い作品がずらり。

北欧区は2本鑑賞。ひとつは、フィンランドのミカ・カウリスマキ監督作品「ファーザーズ・トラップ 禁断の家族」(2011年/フィンランド/フィンランド語/90分/原題:Veljekset/Brothers)。こちらは、少し前にWOWOWで放送されたようですが、実は、劇場未公開・国内DVD未発売の作品なんです。

昨年のフィンランド映画祭2013で、ミカ監督とお会いしたということもあり、観ておきたかった作品です。


ミカ・カウリスマキ監督(右)と、「ミス・ジーンズ・フィンランド」の
マッティ・キンヌネン監督(左)@フィンランド映画祭2013


冒頭のシーン、車&音楽の組み合わせがかっこいい。無言でセリフのないシーンでも状況がつかめてしまうところに、ドキドキ。

三男のミティヤと女性2人による痴話喧嘩でグダグダになっているところに、長男のイヴァルが25年ぶりに帰ってくるという再会のシーンから始まります。

この作品は、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」からアイデアを得た物語で、酒好き・女好きのダメダメ親父のパーヴォと、いい年をした個性的でどこか滑稽な3人兄弟の愛憎劇。

研究者として成功、海外暮らしで25年ぶりに故郷に帰ってきた長男のイヴァル。父パーヴォと暮らし、使用人のようにこき使われることに耐える次男・トルスティ。短期で血の気が多く、口が悪い。映画プロデューサーだが仕事で失敗、金が必要な三男・ミティヤ。

再会した兄弟の話を聞いているうちに、パーヴォの道楽ぶりがスクリーンからじわじわと伝わってきます。それぞれの母親を捨てた父の70歳の誕生日を祝うために集まりますが、何か平和でない空気が。

ずっとずっとくすぶっていたそれぞれの思いを、父の誕生日という日に、徐々に吐き出していく息子たち。何を言われても全く動じない父パーヴォは、笑い飛ばして息子たちを蹴散らす。

突如、心臓麻痺を起こしたパーヴォ。よしきた!といわんばかりに、一番大人しい次男・トルスティが父の耳元で「地獄へ落ちろ、地獄へ落ちろ」と囁くのです が、その瞬間、パーヴォは目をパッチリと開け、くたばってたまるかぁ~!と笑い飛ばし、息子たちを一斉にがっかりさせるというシーンは必見。

まさに、“してやったり”の、ファーザーズ・トラップ。

父への恨みとともに、父の遺産を狙う息子たち。たまりにたまった膿を出すかのように、自分たちの思い通りに、希望どおりになったものの、そのあとに残ったものは何なのか。そこから始まるのは、幸なのか、不幸なのか。

息子たちが狙っていたものは得ることができたのか。最後の最後まで、ファーザーズ・トラップが待っているとは・・・。

驚いたことに、この作品には台本がない。セリフはベテランの俳優たちが即興で作り、演じているそうです。イヴァルとミティヤの2人が長い距離を歩きなが ら、ミティヤがずっと話すというシーンがありましたが、相当な長ゼリフだったのが印象に残っています(1カットだったような)。

鑑賞された方は、外が明るく、虫が常にブンブンと羽音を立てて聞こえるところにもお気づきになったのではないでしょうか?湖や沼など、水辺が多いというこ ともあってか、フィンランドの夏は蚊が多い。ブルーベリーなんて摘んでいると、とんでもなく蚊に刺されてしまうそうですよ。

この男だらけのもどかしい家族のやりとりに、せわしく鳴り響く虫の羽音。終わったあとに残る余韻は、フィンランド映画ならではという感じでしょうか。機会があればぜひ。

参考記事:
 【2/8-14】北欧映画の一週間!北欧映画祭「トーキョーノーザンライツフェスティバル2014」



トーキョーノーザンライツフェスティバル2014

期間:2014年 2月8日(土)~14日(日)
会場:渋谷ユーロスペース渋谷アップリンク・ファクトリーほか
主催・運営:トーキョーノーザンライツフェスティバル実行委員会
http://www.tnlf.jp

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