2014年2月8日から14日まで、渋谷ユーロスペースにて北欧5ヶ国の選りすぐりの映画が上映された北欧映画祭「トーキョーノーザンライツフェスティバル2014(以下TNLF2014)」。今年は、ムーミンの原作者であるトーベ・ヤンソン生誕100周年の年ということで、TNLF2014ではトーベにまつわる映画が上映されました。 上映されたのは、「トーベ・ヤンソンの世界旅行」「ハル、孤独の島」の2本のドキュメンタリー(ジャパンプレミア)と、アニメシリーズの劇場版「ムーミン谷の彗星」の3本。その中の、「ハル、孤独の島」を手がけた監督の一人、リーッカ・タンネル監督が来日。今回、来日が叶わなかったカネルヴァ・セーデルストロム監督とリーッカ・タンネル監督とも親しい間柄で、数々のムーミン関連書籍の翻訳に関わり、ムーミン研究家としても知られる森下圭子さんも来日され、TNLF2014のトークイベントではリーッカ監督とともに登壇されました。インタビュー当日もリーッカ監督の言葉をていねいに通訳してくださった森下さん。リーッカ監督が関わった映画作品について、いろいろと伺ってきました。 トーベの映画って? トーベ・ヤンソンってどんな人? パートナーだったトゥーリッキとの島暮らしとは? リーッカ監督も驚きの連続だったようです。 |
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森下圭子さん(左)とリーッカ・タンネル監督(右) | ||
「撮りためたこのフィルムを映画にしたい!」 トーベとトゥーリッキから渡された膨大なフィルム トーベの小説「人形の家」をベースにした映画を撮ったカネルヴァ・セーデルストロム監督。赤ちゃんの頃からカネルヴァ監督のことを知っていたトーベは、ある日カネルヴァ監督にこう持ちかけます。「撮りためたこのフィルムを映画にしたい」。そこでカネルヴァ監督が見たものは、約20年にもおよぶ、トーベとトゥーリッキが撮った膨大な量のフィルム。ここからトーベとトゥーリッキが願っていたワクワクする映画制作がはじまりました。 リーッカ監督が関わった作品で特に思い入れがあるのは『ハル、孤独の島』。なぜなら、「ものすごく難しい素材だった」から。20年にもわたる歳月の膨大なフィルムを相手に、どういう作品にもっていけばいいかという作業に、およそ3ヶ月かかったそうです。技術的に使うことができないものを削除していくと、トーベに「なぜそのお気に入りの映像を使ってくれないの?」と言われてしまうこともしばしば。『ハル、孤独の島』は、完成までに約2年かかりました。 フィルムを通じてトーベとトゥーリッキのことをいろいろ学んだというリーッカ監督。どれを見てもとても素敵で、2人の工夫をする力、発明する力には感動を覚えたとか。さらに素晴らしいのは、ユーモアのセ ンス。どんなことがあっても、ユーモアで乗り切っていくおもしろさを学んだといいます。 「島での撮影は、トゥーリッキが自分の欲しい“光”を待てるんですよね。本当の、リラックスしたトーベをトゥーリッキは撮ることができたんです」 トゥーリッキは本当にトーベのことをよく知っていて、どのフィルムもトーベをとてもきれいに映していたそうです。 |
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『ハル、孤独の島』より © Lumifilm Oy, 1998 Licensed through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo |
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鳥が住むような岩礁に建てた小屋 夏の島暮らしを心から楽しんだ2人 「実際に作品として完成してみると、きれいに形になって見えるけれど、トーベとトゥーリッキが実際にやっていることは“風来坊”のような“ボヘミアン”のような感じですよね」と微笑むリーッカ監督。「本当に勇気ある人たちだなと思います。だって、こんなに何もないところに住むのは、ちょっとやはり変わっていますよね(笑)」 冬になると、パッキング上手なトゥーリッキは次の夏に向けてパッキングを始めるそうです。どの本を持っていこうかなとか。ちなみに、島で過ごすのは早春から晩夏。秋になると嵐がやってくるので、嵐の前には立ち去ります。電気も水道もないので冬は到底居られません。しかし、この小屋を建てるときはなんと冬だったとか。基礎を作ったときはクリスマスの時期。テントで暮らしながら建てたそうです。 夏でも島に船を着けることができない時もあります。「風速7km位あると、波が荒くて船が着けられないんです」と森下さん。沖に出ているためいろんな波がぶつかってくるとか。実はこのクルーヴ島、島というよりは、もはや“岩礁”。人が住むところではなく、鳥が住むところ。そんな場所に小屋を建て、トーベとトゥーリッキは島暮らしを約25年間楽しみました。 トーベはとにかく冒険が大好き。大自然の中に身を置くのが好きだったそうです。小さい頃から夏の間じゅう、 ずっと海にいた人だったため、その中でどのように自分が適応していくのかという人生を楽しんでいました。時には船で出かけることができない日もあります。船が流されたらどこにも行くことが出来ない孤独の島。流されないよう、船を守り続けなければなりません。そんな環境や自然にトーベは適応していました。 |
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『トーベとトゥーティの欧州旅行』より | |||
© Lumifilm Oy, 2004
Licensed through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo
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完成した映画を鑑賞 トーベの反応は・・・? 完成した作品を鑑賞したトーベとトゥーリッキ。トーベは、“自分好みではない自分の顔”が出てくると、「ヤダー!」と言って嫌がっていたとか。「自分が映っていると当然のことながら自分が満足することはないのですが、『もっと違うのを使ってくれたらよかったのに!』というツッコミもありました(笑)」でも、最終的にはとても喜んでくれたそうです。 |
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リーッカ・タンネル監督よりメッセージ 非常に難しい作品でしたが、監督として、映画をつくる上で1つの大きなポイントになりました。トーベたちの素材を見せてもらったことは本当に大きかったですね。 こんな生き方もあるんだよ!こんな風に旅したり、自由に冒険できるんだよ!ということも言いたかったのではないかと思います。自分たちの生きざまをこうして世に送り出した2人の勇気に拍手を送りたいですね。 (TNLF2014で上映され、DVDが発売されたことについて)日本の皆さんに見てもらえると思うだけでドキドキします。トーベたちも日本の皆さんに見てもらいたかったと思いますし、それが夢だったと思います。私たち監督も同じ。こんな素敵な形で完成して、世に出るなんて、本当に嬉しいです。 |
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【作品紹介】 |
『ハル、孤独の島』(Haru, yksinäisten saari/Haru, the Island of the Solitary) |
『トーベとトゥーティの欧州旅行』(Tove ja Tooti Euroopassa/Tove&Tooti in Europe) |
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1998年/フィンランド/フィンランド語/44分 |
2004年/フィンランド/フィンランド語/58分 | |||||||
監督:カネルヴァ・セーデルストロム、リーッカ・タンネル | 監督:カネルヴァ・セーデルストロム、リーッカ・タンネル | |||||||
1964年、トーベがトゥーリッキと共に作り始め、91年まで毎夏暮らしたクルーヴ島の家。その島の生活をコニカ製8mmカメラでトゥーリッキが撮った映像を編集したドキュメンタリー。 |
約20年間かけてヨーロッパを訪れる2人。アイスランド、パリ、コルシカ島、ベネチア、ロンドン、マドリード、アイルランド・・・独特な視点でそこで暮らす人や文化、日常をとらえた美しい映像作品。 |
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© Lumifilm Oy, 1998 Licensed through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo |
© Lumifilm Oy, 2004 Licensed through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo |
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【監督プロフィール】 |
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カネルヴァ・セーデルストロム(Kanerva Cederström) 1949年生まれ。20本以上のドキュメンタリー作品を手がけており、そのうち何本かはリーッカ・タンネルとの共同制作。今年1月28日から2月2日までヘルシンキで開催された第13回ヘルシンキ・ドキュメンタリー映画祭でアホ・アンド・ソルダン賞を受賞。アホ・アンド・ソルダン賞は、優れたライフワーク的な作品の作り手、フィンランドの創造的なドキュメンタリーを手がけた作家に贈られる名誉ある映画賞。 |
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リーッカ・タンネル(Riikka Tanner) 1949年生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクションライター、映画作家。カネルヴァ・セーデルストロムと何本か映画を共同制作したり、脚本を担当している。1988年には脚本を担当した短編で、タンペレ国際短編映画祭最優秀賞を受賞。 |
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森下圭子(もりした・けいこ)
1969年生まれ。ヘルシンキ在住。ムーミン研究のため1994年フィンランドへ渡り、ヘルシンキ大学で学ぶ。研究の傍ら、芸術プロデュースの仕事を経て独立。雑誌・TVの現地コーディネート、通訳、翻訳などで活躍。映画『かもめ食堂』のアソシエイト・プロデューサー。現在トーベ・ヤンソンの評伝の邦訳準備中。
取材協力:
ビクターエンタテインメント
トーキョーノーザンライツフェスティバル
DVD情報:http://www.hihirecords.com/moomin/
取材:北欧区 hokuwak.com
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