2014/07/25

【特集】自然美と記憶の中の風景を作品に~テキスタイルデザイナー浦 佐和子さんインタビュー

個展にあわせて帰国された、テキスタイルデザイナーの浦佐和子さん。
フィンランドでの作品制作をはじめ、浦さんが“師匠”と呼ぶデザイナーについて、
マリメッコへのデザイン提供に至った経緯や今後の活動などなど、気になるお話をたっぷりと!



北青山にある、ヨーロッパのアイテムを中心に感性を豊かにしてくれるプロダクトを扱う「doinel(ドワネル)」にて、7月29日まで、フィンランドを拠点に活動するテキスタイルデザイナー、浦佐和子(うら・さわこ)さん初の個展「Sawako Ura Exhibition Muistin maisema/記憶の風景」が開催されています。

展覧会では、テキスタイルのための原画がおよそ60点も展示され、すべて今回のために描きおろしたもの。会期中はテーマごとに3回程度入れ替えをして作品が紹介されています。フィンランドでの作品制作について、また、影響を受けた師匠の存在やフィンランドでの暮らしなど、浦さんにお話をお聞きしました。


常にテキスタイルに置き換えながら制作
枠の外へ外へと広がっていくようなイメージで

絵を描くのに必要なものはクレヨン、そして爪楊枝。浦さんの奥行きのある作品は、シンプルな道具と、フィンランドを中心とした記憶の中にある風景から生まれています。

作品はヘルシンキの日々の暮らしや、旅先などからイメージを得ています。夏休みは毎年1ヶ月とり、他のヨーロッパやフィンランド国内を旅するという浦さん。

      原画は、いろんな種類のクレヨンを2~3層に塗り重ねて、爪楊枝で削り、線や点を描いていくという「スクラッチ画」のような手法で描かれています。

質感・発色・オイルの量など、さまざまな種類のクレヨンを使い、重ねたり混ぜ合わせて制作します。

人工的な色にならないよう、あえて重ねて彩度を落としたり、自分が表現したい色が出ないときは、混ざりやすいクレヨンを使ってみるそうです。

作品は1日から、2~3日かかるものまで。色を重ねて描き直したりすることも。
 
 
         
絵としても成立するようには作っているものの、やはり「自分はテキスタイルに置き換えたい」と浦さん。原画は紙に描かれていますが、あくまでも、「テキスタイルのために」デザインされたものであり、テキスタイルに乗ったときの感覚、テキスタイルの感触を想像しながら描いています。

プリントテキスタイルは、同じ柄で色違いのものを作ることができたり、リピートされてつながっていくというのが魅力。絵を描いているときも常に、枠から外へ外へと広がっていくようなイメージで作っているそうです。

作品づくりに向かうのは冬の間。フィンランドの冬は長く、暗く、屋内にいることが多くなります。自然や季節を感じることが出来、色やデザインで気軽に気分も変えられるテキスタイルは、フィンランドではもはやインテリアを超えた、身近で頼りになる“家族”のような存在なのかもしれません。



“師匠”石本藤雄さんとの出会い
2012年にマリメッコから作品を発表

マリメッコでテキスタイルの作品を手がけ、現在はアラビアのアトリエで陶の作品を作り、日本でも個展を開いている石本藤雄さんは浦さんにとっても憧れの存在でした。

学生時代の頃から石本さんの作品が好きだという浦さん。石本さんの作品には、自分の中で強く訴えかけられるものがあったそうです。

「フィンランドで初めてお会いしました。まさか会えるとは思わなくて(笑)」

石本さんは若い世代の方と話すのがとても好きな方だとか。ホームパーティーをしたり、お家に招待していただいたり、アラビアのアトリエにも遊びに行かせてもらったそうです。

大学院の卒業制作のときに、外部から「指導員」をつけられるということで、その指導員を石本さんに依頼。浦さんはそこで初めて、石本さんと本格的にテキスタイルの話をしたといいます。

作品を見た石本さんがマリメッコに推薦してくれることになり、2012年春のマリメッココレクションの中で浦さんの作品が発表されることになりました。(そのひとつ、「Villisika(Wild Boar)」(下記画像参照)は個展でも展示されました)

このとき石本さんから、デザインをはじめ、色選び、パターンのリピートのつけ方など、テキスタイルにまつわる技術的なアドバイスを受け、みっちりと指導を受けたそうです。



これからもテキスタイルにこだわりつつ、
何かプロダクトとしても展開していきたい

「これからも展覧会を定期的にやっていきたいたい」と浦さん。やはりテキスタイルへの思いは強く、描いた作品をどんどんテキスタイルに展開し、そのテキスタイルから何かプロダクトになっていく姿も見てみたいそうです。

やってみたいのは、インテリアやファッション。
風を感じ、何か音色まで聞こえてきそうな、感覚に訴えるデザイン。いつでも自然と寄り添っていられる、表情豊かな空間が出来上がりそう。

フィンランドに渡って6年。暮らしにも慣れてきて、心地よさを感じているという浦さん。

フィンランド人は、人との距離の取り方が上手。
日本人と似ていて遠慮がち。
でも、すごく親身になってくれる。正直で良心を持っている。
押しつけがましくないし、恩着せがましくも、ない。

「もちろん日本と比べたら不便なこともあります。だけど、フィンランドに行ったら忘れちゃいますね」と笑顔。

今回の展覧会は本人初の個展。北青山のdoinelには、家族をはじめ大学卒業以来の友人が集まるなど、ちょとしたミーティングスポットに。

一歩入ると空気がスッと澄み、涼しげな雰囲気に包まれる会場。
展示された作品の中から、また、これから浦さんによって生み出される作品の数々がテキスタイルに変身する日を、そしてプロダクトになってゆく日が今から楽しみです。


浦 佐和子(うら さわこ)
2008年、武蔵野美術大学を卒業後、フィンランドに拠点を移し、2011年にアールト大学の修士号を取得。その後フリーランスのテキスタイルデザイナーとして活動をスタート。現在は主に自然の美と記憶の中の風景をテーマに制作を行い、グループ展やコンペティションにも積極的に参加している。
http://www.sawakoura.com



【展覧会会場となったショップ「doinel(ドワネル)」について】

2004年、北欧の50~70年代におけるモノ作りや生活スタイルの豊かさを現代の生活に新しい提案として再現したいという思いで、学芸大学に北欧ヴィンテージアイテムを扱うショップ「biotope(ビオトープ)」がオープン。2010年に一旦クローズし、外苑前に「doinel」をオープン。doinelでは北欧に限定せず、ヨーロッパのアイテムを中心に、生活の中での感性を豊かにしてくれる雑貨や服飾雑貨、自然派ワインや食料品などのアイテムを扱う。biotopeは、2011年3月から伊勢丹新宿店本館5Fに出店、ヴィンテージアイテムを中心とした定期的な展示や催事を行っている。

※biotopeは、フィンランドのテキスタイルメーカー「Lapuan Kankurit(ラプアン カンクリ)」の日本国内正規総代理店。>>こちら


取材協力:
doinel(株式会社ビオトープ)
デイリープレス

取材:北欧区 hokuwak.com


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