2015/02/10

【特集】「劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス」グザヴィエ・ピカルド監督来日インタビュー!

フィンランドで製作された初のムーミン長編アニメーション映画
「劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス」の
グザヴィエ・ピカルド監督にインタビュー!
映画を数倍楽しく、深く感じることができる監督のお話は必見!



2014年はムーミンの原作者、トーベ・ヤンソン生誕100周年ということで、母国フィンランドをはじめ、国内でも展覧会などを通じてトーベやムーミンに触れる機会がたくさんありました。2015年もまた、ムーミンが出版されて70年という記念の年。まだまだムーミンの話題でにぎわいそうな予感。

今年は2月にムーミンの映画が公開されるということで、すでに昨年から注目を集めています。母国フィンランドで初めて製作された長編アニメーション映画「劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス」です。この映画の監督を務めたグザヴィエ・ピカルド氏が来日。数あるムーミンの物語の中でリビエラを選んだ理由、作品への想い、手描きアニメーション映画制作の苦労、色彩へのこだわりなど、たっぷりとお話を聞いてきました。

「トーベ・ヤンソンのオリジナルコミックを題材にした映画を誰も作ろうとしないのよ」という、トーベの姪にあたるソフィア・ヤンソンさんの声を聞いたハンナ・ヘミラ氏。ヘミラ氏はアキ・カウリスマキ監督の「ル・アーヴルの靴みがき」のラインプロデューサーで一躍有名となり、トーベとトゥーリッキのドキュメンタリー映画「ハル、孤独の島」と「トーベとトゥーティの欧州旅行」のプロデューサーとして活躍。さらに今回、「劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス」のプロデューサーも務めることになりました。

ヘミラ氏は、コミックから映画にするという歴史のある国、フランスを思いつき、そこで白羽の矢が立ったのが、グザヴィエ・ピカルド監督でした。プロデューサーのヘミラ氏から声がかかったとき、「かなり興奮した」と振り返り、「すぐ飛行機に乗ってフィンランドへ行ったんだよ」と嬉しそうに話してくれました。本当にとてもやりたかった映画だったそうです。


――― この映画は、ムーミン一家がムーミン谷を抜け出して南の地、リビエラへ行くというコミックが原作となっていますよね。日本ではコミック作品よりも、本のシリーズや、TVアニメのほうが浸透しています。連載されていた英紙の影響も大きいと思いますが、フランスをはじめ、ヨーロッパではどちらかというとコミックに登場するムーミンのほうが知れられていますか?

グザヴィエ・ピカルド監督(以下、ピカルド監督):
ヨーロッパの中では、フィンランドやスウェーデンといった北欧をはじめ、ドイツやイギリスなどではムーミンは知られていると思いますが、フランスやイタリアなどではあまり知られていないという印象なんです。芸術的なことに携わっている人、アーティストたちはムーミンのことを知っていると思います。

実は私は、日本でムーミンを知ったんですよ。90年代です。本屋さんで並んでいる本の中に、たまたまムーミンを見つけました。日本の本は本当にきれいに出来ていますよね。ムーミングッズもこんなに色々あって驚きました。本で知ったあと、ムーミンのTVアニメシリーズがあることを知りました。

――― 日本でムーミンを!驚きました!ムーミンは英紙で連載されていたとはいえ、浸透度は国によって異なるんですね。ところで、数あるムーミン作品のなかで、なぜこの物語を選んだのでしょう?他にも候補はありましたか?

ピカルド監督:
2つ理由があります。ムーミン一家は常にムーミン谷に住んでいます。ちょっと不思議な世界に住んでいるムーミンたちですが、いつもの生活圏から出てはじめて、それぞれのキャラクターが際立つのではないかと思いました。普段と違う世界に出るとそれがよくわかるため、リビエラを選んだというのが理由のひとつ。あともう一つは、モンガガ侯爵やオードレー、クラークなど、とても魅力的なキャラクターが出てくるからです。デッサン的にも面白いし、可愛い。そういう人たちとムーミンを対峙させると面白いなと。

ムーミンを知らない人でもわかりやすく、というのを意識しました。他にも候補が上がりましたが、すでにムーミンの背景やキャラクター、物語をよく知っている人なら理解しやすいけれど、はじめてムーミンのことを知る人のことを考えたら、わかりやすいものがいい。私はこのリビエラがいいと思っていました。なんといってもユーモアがあります。

――― コミックから映画にするという難しさはありましたか?全編手描きということで、苦労した点は?

ピカルド監督:
紙の漫画から映画を作るというのは、はじめてのことでした。トーベ・ヤンソンの精神をそのまま映画でも感じ取れるようにする、それが一番大切で難しいところでした。コピーをするだけでは伝わってこない。いかにアーティスティックに、また技術的に手を加えて、漫画を見ているときと同じような印象を持ってもらえるようにしなければなりませんでした。それに意外と手間がかかりました。

何か大変だったかというと、ムーミン一家を描くことです。ムーミンは一筆で描かれているため、線が少しでも違うと、ムーミンに見えなくなってしまうんです。実は苦労して長い時間かけて作っています。フローレンの前髪だけでも、コミックスを見てもちょっとずつ違う。そういった細かい部分も、映画で同じでないと印象が異なってしまうので違和感のないよう統一しました。また、キャラクターが立ったときに地面に映る影なども、大きさや濃さなどを注意して描きました。

そうです、全編手描きです。こういった作品をやるのは最後なのではないかと(笑)

――― 背景の色彩もとっても美しいですね。色彩に関してはかなりこだわりましたか?

ピカルド監督:
シーンごとに異なる色をつけました。色は登場するキャラクターの心情を表し、グラデーションで作られています。これも大変神経を使いながらの作業でした。たとえば、ムーミン谷は穏やかな優しい青色で、みんなが幸せに暮らしていて、リビエラでは長旅の末に到着した嬉しい思いを、あたたかい黄色で表しています。夜や決闘のシーンはバイオレットのような色で、不安感を出しました。写実的な色は使いたくなかったんです。

ムーミンたちの体の微妙な色合いから背景にいたるまで、ちょっとした色の違いで下品にならないよう、非常に注意しながら色を作りました。小さな画面ではOKでも、映画館のスクリーンでは思った色と異なる場合があります。なので、チームで何度もチェックを繰り返しました。それは大変でしたけど、とてもいいものが出来たと思います。

――― 最後に、監督の好きなムーミンキャラクターを教えてください。

ピカルド監督:
ムーミンママです。エプロンをして、植物を育てて、家に居てと、主婦だけをやっているように見えるけれど、全然そうじゃないですよね。とてもエキセントリックなところもあるし。ちょっと辛口で(私たちフランス人の言うところの)ブリティッシュ・ユーモアがあって。けっして押しつけたりはしないけれど、すごく強い女性。はっきりと自分の意思や考え方を持っている現代の女性ともいえますね。



押井守監督とも親交があり、日本とも縁のあるグザヴィエ・ピカルド監督。手がけた作品が日本で公開されることはとても嬉しいとおっしゃっていました。

トーベの世界観を出すこと、それを一番大切にやってきたというピカルド監督。ムーミンは暮らしの一部ともいえるフィンランドや、昔からなじみのある日本からすれば、「ムーミンを知らない人でもわかりやすく」という視点は、意外となかなか思いつかなかったかもしれません。世界中のより多くの人たちにムーミンを知ってもらうべく、とても入っていきやすい設定なうえに、ムーミンの世界観にある大切なことも描かれているエピソードが選ばれました。

フランス人であるピカルド監督だからこそ、ムーミンたちを上手く客観的に分析。監督のお話にもあるように、ムーミンたちにとって完全アウェイなリビエラを舞台に、「あ、こんな一面があったんだ!」と、おなじみの主要キャラクターがグンと深く、魅力的に描かれています。(中でもフローレンはキャラ炸裂!)

色に関しても、「たとえばこのシーンはね・・・」と、熱く語ってくださったピカルド監督。アニメーション映画、本作への情熱が伝わってきました。「きっとトーベ・ヤンソンも喜んでくれると思う」と笑顔のピカルド監督。フランスとも関わりがあるトーベもまた、何か縁を感じずにはいられないのではないでしょうか。

ムーミン一家の住む家を真ん中に、穏やかで柔らかな景色が広がる冒頭シーン。ていねいに描かれた線や色彩の美しさに、心をわしづかみにされることでしょう。

    ●グザヴィエ・ピカルド監督プロフィール●

フランス生まれ。脚本家・監督・プロデューサーとして国際的に活躍。代表作は、ジーン・チャロピンとの合作で300分の超長編アニメ「The Bot’s Master」、Hanna Baeberaとの合作「Jonny Quest」、リュック・ベッソン・押井守と共に手がけた「Valerian」など。彼の作品は100ヶ国以上で配給されている。 2010年の上海万国博覧会では、フランスのパビリオンで7本のショート・アニメーション映画を披露。2000年、日本人プロデューサーTakashi Masunagaと共に制作会社Pictakを創設。アジアやカナダ、3D・2Dのアニメを製作するフランスのスタジオともコラボを果たす。「marcelino」、「Odd Family」、「Valerian」などがPictakの代表作。
 

【ストーリー】
ムーミン一家は、ムーミン谷を抜け出し、南の海へとバカンスにやってきました。
わくわくしていた気分もつかの間、フローレンとムーミンパパは貴族の豪華で贅沢な暮らしにすっかり虜になってしまいます。そんなふたりに腹を立てたムーミンとムーミンママは、ホテルから飛び出してしまいます・・・!果たしてムーミンたちはこのままバラバラになってしまうのか・・・!

 
劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス
(原題:Muumit Rivieralla/英題:Moomins on the Riviera)
監督:グザヴィエ・ピカルド
プロデューサー:ハンナ・ヘミラ
アソシエイト・プロデューサー:ソフィア・ヤンソン
2014年/77分/カラー
配給・宣伝:ファントム・フィルム
公式HP:http://www.moomins-movie.com/index.html
2015年2月13日(金)より、全国ロードショー!

© 2014 Handle Productions Oy & Pictak Cie © Moomin Characters™

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