2015/05/27

【特集】マーク・ゼンツナー氏来日トークイベント @ヴィトラ&アルテック オフィス・ショールーム

マーク・ゼンツナー氏来日トークイベント

アアルトはどんな時代を駆け抜けてきたのか?
同世代を生きたアーティストからの影響は?
アアルトのオーガニックな建築物をより現代的に解釈した
「アルヴァ・アアルト ‐ セカンド・ネイチャー展」。
今年3月まで開催された会場ヴィトラ・デザイン・ミュージアムとは?


(c)Vitra Design Museum

世界中のデザイン家具や建築物が集まるヴィトラ・デザイン・ミュージアムのディレクター、マーク・ゼンツナー氏が来日。ヴィトラ&アルテック オフィス・ショールームにて、トークイベントが開催されました。

ゼンツナー氏はまず、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムがどんなミュージアムなのかを紹介。さらに、昨年9月27日から今年3月1日まで開催されていた「アルヴァ・アアルト ‐ セカンド・ネイチャー展」の概要を解説。なんと現在、この展覧会を日本でも開催すべく準備を進めているという嬉しい発表もありました。ヴィトラ・デザイン・ミュージアムで開催された「アルヴァ・アアルト ‐ セカンド・ネイチャー展」から、日本での巡回展がいったいどのようなものになるだろうと、想像ふくらむゼンツナー氏のトーク。その模様をお届けします。


(マーク・ゼンツナー氏)

3ヶ国に隣接する「ヴィトラ・デザイン・ミュージアム」
約6500点の貴重な作品を所蔵するデザイン博物館


建築やデザインを専門にしている方、興味のある方にはとても馴染みのあるヴィトラ・デザイン・ミュージアム。聞いたことはあるけれど、いったいどんなところ?という方もいらっしゃるでしょう。ヴィトラ・デザイン・ミュージアムは、ドイツのヴァイル・アム・ラインにある博物館で、家具メーカー「ヴィトラ社」(本社:スイス)の工場敷地内(通称:ヴィトラ・キャンパス)にあります。

「スイスに住んでいるけど、フランスを抜けてドイツまで通勤しているよ」というゼンツナー氏。なんと、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムは、フランス・スイス・ドイツの3国までそれぞれ約1kmという、ユニークかつ広大な場所に位置しています。世界中のアート性あふれるさまざまなデザイン家具や照明器具、建築物が集結した大規模なデザイン博物館で、収集・保存・研究を重ねつつ作品を展示することを目的としています。チャールズ&レイ・イームズ夫妻、ヴェルナー(ヴァーナー)・パントンをはじめとする貴重な作品を所蔵。19世紀から今日までの作品、その数は約6500点にのぼり、世界中のミュージアムにも貸し出されています。

特徴的な外観を持つミュージアムは有名な建築家フランク・ゲーリーがデザインしたもの。敷地内には、安藤忠雄が手がけた「セミナーハウス(1993)」、日本の新国立競技場をデザインを担当するザハ・ハディッドが初めて建てた「消防ステーション(1993)」なども見られます。現在、保管用として保存してある作品のための新しい建物を建設中。それにより、コレクションの一部を一般に公開できるようになるとか。2014年にはオフィスを見える形にし、今年の終わりにはカフェやビストロも公開していく予定。

ヴィトラ・デザイン・ミュージアムは、デザインや建築をテーマに、歴史・現代・人などに焦点を当てた展示を特徴としており、年に2回大きな企画展を開催(現在は9月13日まで「Making Africa」展開催中)。そのヴィトラ・デザイン・ミュージアムで開催されたのが「アルヴァ・アアルト ‐ セカンドネイチャー展覧会」です。現代人がアアルト作品をどんな風に見ているか、反応するかが、この展覧会開催の目的だそうです。


(c)Vitra Design Museum

「世界的な存在になる」という夢に向かって
アアルトの軌跡をひも解く大規模な回顧展


展覧会は、アアルトの1920年代の初期の作品から、国際的なプロジェクトを手がけていく1950年代以降までを取り上げ、4つセクションに分けて紹介しています。「セクション1」は1920年~1930年頃にフォーカス。この頃アアルトは、妻アイノと一緒にイタリアを旅行します。イタリアの文化からとても多くのインスピレーションを受け、その後の活動に大きな影響を与えたそうです。

結核治療用の施設として建てられ、アアルトの代表作ともいえるパイミオのサナトリウムは、建物から家具・照明・洗面台など細部にいたるまで手がけました。階ごとに色を変えるという、色で識別するアイデアは、1930年代当時、かなり斬新なことだったそうです。また、当時フィンランド領で現在ロシア領に位置するヴィープリ図書館も有名。アアルトは、山の景色を思い浮かべながらこの図書館を手がけたとか。波を打っているような特徴的なデザインの天井は、音響にも効果があるよう計算されています。

「セクション2」では、1930~1940年頃の同世代のアーティストたちとの交流や、アアルトを取り巻く人々にフォーカス。アアルトがその時代に影響を受け、建てた作品が紹介されます。フランスの画家、フェルナン・レジェの「建築家はオーケストラの指揮者だ」という言葉に大変共感したアアルトは、いかに芸術と建築を結びつけられるかを考えていました。レジェとはとても親しい友人だったそうです。

自らを「家具のデザイナー」と捉えていたアアルト。「セクション3」では、1940年代の家具デザインや照明、ガラス製品など、デザイナーとしてのアアルトにフォーカスしていきます。アルテックを設立したのが1935年。初期の頃はユニークピースを作っていましたが、その後、シリーズで展開していきます。

サナトリウムのために作られた「パイミオチェア」(1932)、現在でもフィンランド国内では定番、日本でも愛好家の多いスツール60(1933)、ヘルシンキのサヴォイレストランのために作られた「サヴォイベース(アアルトベース)」(1936)やペンダントライト「ゴールデンベル」(1937)といった代表作が続々と誕生。人々の手に届く、よりリーズナブルな価格で、日常生活にアートを取り入れることが可能になりました。

「セクション4」では、戦後期、1950年以降のアアルトによる大規模な施設や建築物といったプロジェクトにフォーカス。デザインだけでなく、使う素材の研究にも力を入れていたアアルトは、例えばレンガを自ら作り出し、自身の別荘に使用。どんな風に移り変わっていくかを見てから、注文を受けた他の建築に使っていました。アメリカやヨーロッパなど、海外の大きなプロジェクトを手がける中、イランやイラクのミュージアムなど、実現しなかったプロジェクトもあったとか。1972年、キャリアの終盤に手がけたフィンランディアホールは、ドアノブや照明といった細部までこだわってデザインされました。

「世界的な存在になる」という夢を見事実現。建築物400以上、家具やガラス製品など、半世紀におよぶ偉大な功績を残したアアルト。彼のオーガニックな建築物は、フィンランドの自然や景色に由来するという解釈がこれまでよく見られてきましたが、そこから一歩踏み込み、より現代的な解釈へ。同世代を生きたアーティストからの影響は?その可能性を探る「アルヴァ・アアルト ‐ セカンド・ネイチャー展」。この規模で、アアルトの世界を多角的に見られるのは大変貴重なこと。準備段階で日本に上陸するのはまだ先のようですが、これは今からチェックしておきたい展覧会といえるでしょう。

ヴィトラ・デザイン・ミュージアム
http://www.design-museum.de/de/informationen.html
ヴィトラ・キャンパス
http://www.vitra.com/en-us/campus

【動画】ヴィトラ・デザイン・ミュージアムでの展覧会の様子
Alvar Aalto: Second Nature. Retrospective at Vitra Design Museum 
https://youtu.be/-N8-OG2tRRU

(c)Vitra Design Museum

【Marc Zehntner(マーク・ゼンツナー)プロフィール】
スイス、バーゼル年生まれ。経営学ならびに慈善のための資金調達を学んだ後、2000年にエグゼクティブディレクターのポジションに就任。その後、バーゼルにある自然史博物館で働き、スイス・バーゼル応用科学大学で、文化機関のマーケティングについてなど数多くの教鞭に立つ。2009年、COOとしてヴィトラ・デザイン・ミュージアムに入社、2011年にMateo Kris(マテオ・クリース)と共に理事を引き継ぐ。現在は主にプロジェクト管理、展示関連、財務、人事など多岐に渡り活躍。非営利組織であるヴィトラ・デザイン・ミュージアムの責任者。

お問い合わせ先:アルテック ジャパン 03 6447 4981

●アルヴァ・アアルト代表作フォトギャラリー●

     
ARMCHAIR 41 "PAIMIO"(1932)

 

STOOL 60(1933)

 
     
     

 

ARMCHAIR 400(1936)

901 TEA TROLLEY(1936)  
     
      
A330S PENDANT LAMP(1937)  FABRIC SIENA(1954)  

(c)アルテック ジャパン

関連記事:
【特集】トークイベント「Finland Design Talk by Artek & Design Forum Finland」レポート!
美しく共鳴しあうグッドデザインは、ここから生まれる ―「Vitra&Artek」新オフィス・ショールーム誕生
このページの先頭へ