2015/11/10

【特集】沖縄からフィンランドへ!日々の美しさをテキスタイルに~島塚絵里さんインタビュー

10代で突如行くことになったフィンランドに感激。
英語教師からテキスタイルデザイナーへ。
めぐりめぐって辿りついた先は、やはりフィンランドだった。
島塚さんのデザインの根源にあるものとは?



2015年10月、代々木上原にあるケースギャラリーにて行われていた島塚絵里さんの初個展「Eri Shimatsuka Exhibition 2015 森のなか Metsän siimeksessä」。テキスタイルデザイナーとして、マリメッコのプリントデザインをはじめ、フィンランドデザイン関連書籍、現地コーディネートや取材、執筆など、多岐にわたり活動されています。

次から次へとたくさんの人が足を運んでいた個展会場。ふんわりとした雰囲気と人当たりの良さ、そしてなんといっても、ものすごい数の「引き出し」から、楽しい話が出てくる島塚さんに、会いたくなるのも納得です。

日本で英語の教師をしていた島塚さんがフィンランドに渡って8年。なぜフィンランドだったのか。テキスタイルのデザインはどのようにして生まれるのか。多忙な中、帰国中の島塚さんにお話を伺いました。

■海外に興味を持つきっかけとなったフィンランド

フィンランドとの出会いは中学2年生のとき。夏休みに1ヶ月間、交換ホームステイのプログラムがあり、その年はたまたまフィンランド。ひょっとした縁があり、急きょ参加することになったそうです。

どんなところかもさっぱりわからず、英語もほぼ話せない。しかし、視野が一気に広がり、人生において忘れられない大きな1ヶ月になったそうです。

すっかり好きになってしまったフィンランドに思いを馳せつつ、中学・高校と過ごします。大学進学時は、美術方面へ行くか、国際関係学を専攻するかで迷っていた島塚さん。当時、絵を習っていた予備校の講師からの「芸術は後から始めても遅くはない」という言葉に、津田塾大学への進学を選択。出身高校や沖縄で英語の教師として指導にあたっていました。

沖縄での3年間はその後の島塚さんの人生に大きな影響を与えています。美術へ関心も冷めず、武蔵野美術大学の通信教育で勉強していたそうです。その沖縄で、中学のときに交換ホームステイで知り合ったフィンランド人と再会。フィンランドに留学したいという気持ちが強くなりました。

■埋もれがちな日々の美しさに気づく

沖縄の暮らしの中に根づき、ていねいに作られ彩られるものの中で、島塚さんが惹かれたのはテキスタイル。染織家の石垣昭子さんに感銘を受けたそうです。また、これまでに訪れたり、住んだことのあるアメリカ、バングラデシュ、アフリカのベナンといったさまざまな場所や文化からの影響も受けています。

フィンランドの自然からヒントを得ることが多いそうですが、日々の何気ない暮らしからもインスピレーションを受けるそうです。フィンランドには余計なモノがない、シンプルだからこそ見えるものがあるのだと。季節を感じたり、水がおいしいなと感じたり。なんでも、「静けさの音」という音があるのだとか。

今年生誕100周年となるタピオ・ヴィルカラ。イッタラのガラスシリーズ「ウルティマツーレ」などで知られるフィンランドを代表するデザイナーです。島塚さんがタピオの娘さんにインタビューした際、自分の心臓の音が聞こえるくらいの何もない静かな森に住んでいたという話を聞いたそうです。それを自身もぜひ体験してみたいと、夏休みを利用して電気のない夏小屋に滞在してみたとか。8日間ほどしてから、心臓の音が聞こえてきたといいます。

森と、静けさと、ひとり。
自然とひとつになる、フィンランドの大切な要素。

個展の会場には、フィンランドに欠かせない両極端な「夏」と「冬」を感じることができるインスタレーションも。夏の森の作品では小鳥のさえずりや優しい光、冬の森の作品では暗さや静けさを体感できる空間になっていました。

■作品づくりで意識しているのは柔軟性

おいしいベリーを見つけては夢中で摘んでいくように、ぐんぐんアイデアを取り入れていく島塚さん。実際どのように作品に反映させているのでしょう。いろんなところからヒントを得ては、とにかく試しているようです。

フィンランドデザインに関わる人々との交流も深い島塚さん。尊敬するテキスタイルデザイナー、脇阪克二さんが毎日欠かさない日課に感銘を受け、自身も取り入れているようです。

脇阪さんは、毎日奥様宛てに絵葉書を描いているそうです。これが日課であり、トレーニングでもあるとか。ハガキサイズで描いてみて、それから発展させてみたり。毎日奥様に届くというのが素敵です。

また、広告用ポスターデザインなどで知られるフィンランドのグラフィックデザイナー、エリック・ブルーンによると、ポスターや広告は、「100~200メートル先からでも、一目でそれが何であるかがわからないと意味がない」と言い、マッチ箱サイズで描いてみるのだとか。

先輩デザイナーたちとの交流の中で、自分なりに変にルールを設けようとせず、柔軟にいろいろと試してみるのだそうです。

■これからも枠にとらわれない自由な発想で

フィンランド以外では、ノルウェー、スウェーデン、デンマークに行ったことがあるという島塚さん。

「フィンランドの人はとても素朴。誰にでも対等で、自分らしく人間らしくいられる場所。合理的な部分もあり、自立を求められます。暮らしや趣味といった日々の楽しみを大切にしているのも魅力です」

「もっとテキスタイルを追求していきたい」という島塚さんは、現在ヘルシンキの大学院で勉強中。フィンランドらしさを取り入れた絵本にも取り組んでみたいそうです。今秋、日本の企業とコラボレーションした「PIKKU SAARI」コレクションは、暮らしに彩りを与え、ファッションやインテリア、雑貨などにも合うテキスタイルデザインを追求したもの。

マリメッコから培った技術、リズム感、リピート。
会場でディスプレイされていた洋服たちは、一部発売中のものもありますが、アーカイヴのものも。実は、沖縄やアフリカといったいろんな文化のテキスタイルからヒントを得たデザインがいっぱい。

これからも、国や文化の枠にとらわれない自由なアイデアと豊富な知識で、多くの心をつかむ島塚さんのデザインに期待!

   
個展会場の様子。原画も数点展示されました。 「PIKKU SAARI」を使ったファブリックパネル。
   
どのデザインにしようか、迷う方の姿も。  ベリーや群島からヒントを得たキュートなデザイン。
   
「夏の森」のインスタレーションからは、鳥の
さえずりや優しい木漏れ日が。使われていた
テキスタイルは日本の松のようなイメージが
見え隠れします。苔のクッションも島塚さんが
制作。会場の設計はimaさん。
 島塚さんの右に見えるキッズワンピースのプリント
デザインは、沖縄の北部、やんばるの森をイメージ
したもの。沖縄はインスピレーションの宝庫。西表
島のマングローブの森は、イッタラ「バード」のデザ
イナー、オイバ・トイッカも訪れ、大変気に入ってい
たとか。

島塚絵里ホームページ
http://www.erishimatsuka.com
Pikku saari kokka-fabric
http://kokka-fabric.com/textile-story/pikku-saari/

取材協力:CASE gallery
http://www.casedepon.com


●CASE galleryに、お蕎麦屋さんオープン●
ギャラリー奥にあるお蕎麦屋さんのスペースをお借りして、島塚さんにお話を伺いました。CASE galleryの奥に、お蕎麦屋さんがオープンしているのをご存知でしたか?

神聖な厨房。とても美しくピカピカに輝いていました。自分の好きなそばちょこを選んで、お蕎麦をいただけるのだそうです。ご興味ある方はぜひ。



精進手打ちそば「あさひ」
営業時間:17:00~21:00(ラストオーダー)
定休日:火・水
予約&お問い合わせ:あさひ 03-3485-7785/CASE gallery 03-5452-3171
※ギャラリーイベント時、振替営業または臨時休業あり

このページの先頭へ