2016/10/31

【特集】心の内側にある風景を切り絵に。スウェーデンの切り絵作家、アグネータ・フロック インタビュー

花や植物、鳥とともに過ごす緑豊かな庭で感じたこと、
自分の心の奥底から浮かびあがる風景を切り絵に。



京都を皮切りに国内を巡ってきた、「スウェーデンの切り絵作家アグネータ・フロックの世界展」が、10月22日より東京へ巡回。東京の玉川高島屋S・C西館1Fアレーナホールで、11月3日まで開催されています。

たくさんの植物や動物、架空の生き物、神話的なものまで、愛らしいモチーフとあたたかい色彩の切り絵で日本にも多くのファンを持つアグネータさん。初日前日の設営でお忙しいところ、お時間をいただき、インタビューをさせていただきました。

アグネータさんが作品をつくるときに意識していること、どんなところから切り絵のモチーフが浮かんでくるのでしょうか。また、日本でのお気に入りの場所、アグネータ家が大切にしている素敵な習慣なども教えてくださいました。



■切り絵の世界なら、現実的に不可能なことでも可能にできる

緑の木々や、花、ベリー、愛らしい動物たち。一度目にすると、心にすっと入りこんで、あたたかい気持ちになれるアグネータさんの作品。切り絵を始める前は、織物を中心に手がけていたといいます。

中世の古い教会のある、ストックホルム郊外のテービー教会村に住むアグネータさん。庭には植物や花、鳥も遊びに来ます。単に、この花が好きだからとか、鳥を切り絵にしようかなと、ぱっと見や外見的なものではなく、その自然あふれる庭を歩いてみたときに、ぱーっと流れるように、自分の目の前に浮かびあがる風景を描くのだとか。

それはきっと、夢の中や心の奥底、自分の中にあるもの。もしかしたら、その日心に残っているものが、自分にぴたり合ったときにふと出てきたものかもしれない。そんな風に浮かびあがってきたものを切り絵にしています。「たとえばそれは、音楽かもしれないし、詩や聖書の一節かもしれないわね」とアグネータさん。

タペストリー作品「心と手は沈黙の中で創造する」(1981)は、下絵に3ヶ月、織りに2年かかったという大作。「メッセージをしっかり伝えたいと思うと、すごく時間がかかりますね」というアグネータさんは、羊毛を紡ぐところから、染めて、織りあげるまで、全工程を手がけました。切り絵は、思い立ったらすぐに作れるという手軽さもあって始めたそうです。


「心と手は沈黙の中で創造する」(1981)©Agneta Flock


旧約聖書の一節をモチーフにした作品「平和の王国」(2010-2011)は、平和の国を作るためには、(動物も人間も)みんなが仲良くして、先頭に子供が立って歩いていくと、平和になれるというもの。また、そういった聖書や詩などだけでなく、娘が生まれた時に作った作品などもあり、ちょっとした日常を作品に表現することもあるそうです。

「どんな作品にしようかと考えているときが一番楽しいけれど、やはり始める前が一番大変。それでも、不可能だと思われるものも可能にしてくれるのが切り絵。いろんな可能性を考えるのが楽しい」とアグネータさん。

■日本からの依頼に頭を悩ませたことも。お気に入りは九州の暖かい地域

2002年に初めて日本で紹介されてから、アグネータさんの来日は今回で14回目。日本との仕事も多く、中でも印象的だったのが、埼玉県の川越市。川越の氷川神社に日本の神話を切り絵で作ってほしいという依頼があり、4点の作品が氷川神社に奉納されました。日本の神話や日本の文化のことなどを、詳しく知らないアグネータさんは、今でも「ものすごく難しかった」と、かなり思い出深い仕事だったよう。(※4枚の切り絵はこちら

また、2008年、「川越ライブアート2008」の海外招待アーティストとして来日した時もアグネータさんの作品が展示されました。このとき苦労したのは、川越の街のことや名産品を作品に入れてほしいというリクエスト。小江戸と呼ばれる歴史ある川越のこと、サツマイモやお茶などをどうやって作品に入れたらよいのか、かなり頭をひねったようです。

アグネータさんが日本国内で一番初めに訪れたのは徳島県。日本に行ったらぜひ藍染めを学びたいと思ったアグネータさん。さらに、貝紫染めなら九州だと教えてもらい、宮崎県へ。温かい気候とおいしい食べ物。以来、すっかりお気に入りの場所になったようです。



■特別な日に母がしてくれた嬉しい習慣を、自分の子供たちにも

子供たちはすっかり大きくなって、お孫さんもいるアグネータさん。日々の暮らしはご主人と二人ですが、クリスマスになると家族が集います。「日本のお正月みたいな感じよ」とアグネータさん。ジンジャークッキーを焼いたりして、お孫さんが来るのを楽しみにしているとか。アドベントが始まる頃(11月末頃)から、毎年クリスマス用の切り絵を作り始めます。

アグネータさん自身は3人兄弟。子供の頃、クリスマスには一人ずつ子供たち用のトレイが用意され、その上にはアグネータさんの母特製の刺繍がほどこされたクロスが敷いてありました。クリスマスがいよいよ始まるよという、小さなお楽しみという感覚で、クリスマスイヴの朝、ジンジャークッキーと火を灯したキャンドルを乗せたトレイを持って、子供たちの部屋に置いてくれたのだとか。その習慣を、アグネータさんは自分の子供たちにもしていたといいます。

また、特にお誕生日は特別なものだとアグネータさん。お誕生日には、「おめでとう」というメッセージ入りの刺繍のクロスが用意され、夏生まれの子だと、野いちご、サンドイッチとクッキー、イギリスのアンティークのお誕生日用のカップに注がれた紅茶、スウェーデンの国旗を立てて完成。朝、これらを乗せたトレイをバースデーキッズのお部屋に持っていくのだそう。

「小さい頃はホットチョコレート、大きくなったらコーヒーや紅茶に。サンドイッチは、その日だけの特別においしいものをね。お誕生日というのは、その日一日、その人だけのお祝いの日。誰のものでもないの。我が家ではそんな風にお祝いしているのよ」

今日は特別な日、あなただけの特別な時間。大げさなことはひとつもなく、手のぬくもりを感じるあたたかいアグネータ家のシーンが目に浮かびます。そういった日々を大切に、特別な日はもっと特別に。そんなアグネータさんから生まれた作品だからこそ、たくさんの人を魅了するのでしょう。



【アグネータ・フロック(Agneta Flock)プロフィール】
1941年、スウェーデン・イェテボリー生まれ。1965年、スウェーデン国立芸術工芸デザイン大学コンストファック、テキスタイル科卒業。テキスタイル作家として40年以上活動する。作品は、ストックホルム国立美術館、北方民族博物館、イェテボリー・ルスカ美術工芸博物館等に収蔵されている。その後、切り絵作品の製作を本格的にはじめ、30回以上個展を開催。2004年には、NHK「おしゃれ工房」(NHK出版)に登場。さらに、同テキストの目次に2年間にわたり作品を連載するなど、幅広く活躍。

<会場フォト>

切り絵や織物以外に、刺繍も手がけるというアグネータさん。病院やオフィス、大使館、学校、図書館などにも飾られているとか。日本では、手前の作品「夜の女神」が、京都ルネス病院に飾られる予定。ちなみに切り絵だと、アストリッド・リンドグレーン小児病院にもアグネータさんの作品があるそうです。


ほかには、会場でも展示されているベルベットの布地に綿を詰めた立体感のある作品も。「布と糸を使う作品は、これからもやっていきたいわ」とにっこり。




関連グッズも豊富!てぬぐいや、ステーショリー、書籍、ポストカードなど、訪れた人々を魅了する充実のランナップ。アグネータ・フロックの世界展(東京会場)は、11月3日まで。

北欧から届いたファンタジー
切り絵作家アグネータ・フロックの世界展(東京会場)
会期:2016年10月22(土)~11月3日(木・祝)
会場:玉川高島屋S・C 西館1F アレーナホール(世田谷区玉川3-17-1)
開館時間:10:00~20:00(最終日は18:00まで/入場は閉場の30分前まで)
展覧会ページ:http://www.tamagawa-sc.com/event/?id=1992※11
※11月3日まで、東京の玉川高島屋S・C西館1Fアレーナホールで開催中!

関連記事:【招待券プレゼント】切り絵作家アグネータ・フロックの世界展(東京10/22-11/3)

取材協力:NHKサービスセンター、玉川高島屋S・C、コンタクト

このページの先頭へ