2016/12/01

【特集】より深く楽しめるエピソード満載!『幸せなひとりぼっち』ハンネス・ホルム監督インタビュー

普通の男性の普通の人生を描いた『幸せなひとりぼっち』
家に帰ったら、大切な誰かをギュッと抱きしめたくなる!



世界30ヶ国でベストセラーとなっているフレドリック・バックマンのデビュー小説「En man som heter Ove」を映画化した『幸せなひとりぼっち』のハンネス・ホルム監督にインタビュー。

脚本も手がけた監督は、映画化にあたり、原作そのままではなく独自のものにしたいと考え、原作を読んだ上で一度全部忘れてみたとか。そうすると、自分の言葉で自然と脚本にできたと話しています。映画の背景、注目すべきシーン、監督が「作品を成功に導いてくれた」という立役者など、映画の舞台裏をより具体的に監督に突っ込んでお聞きしました!



――スウェーデン映画祭2014で『青空の背後』(10)を日本で見ました。『青空の背後』と『幸せなひとりぼっち』では、かなりテイストが異なるので、同じ監督が手がけてらしたというのを知ってすごく驚きました。それでも、前者も、アルコール中毒や麻薬問題といった社会問題に切り込み、包み隠さず取り上げ、今回も、親友のルネが強制的に老人ホームに連れていかれそうになったように、社会福祉のダークサイドを取り上げていました。これらは意図的に伝えたくて盛り込んでいるのでしょうか?

ホルム監督:
若いときはスウェーデンのテレビで政治家の風刺劇などを扱っていたんです。年齢を重ねてくると、『アダムとイブ』のように、ヒューマン的なテイストになっていきました。そう、人生をテーマにしたものに、社会問題を折り込む、それが自分が目指すものです。でも社会問題のみだと、物語がつまらなくなってしまうよね。『幸せなひとりぼっち』は、その点、とてもバランスが取れたものに仕上がったと思う。

日本とスウェーデンは考え方がちょっと似ているところあるよね。高齢者だから老人ホームに入るという考えは、どうかなと思う。一昔前は、お年寄りが子供たちに物語を読んだり、いろんな知識な物事を教えたりするという機会があったよね。でも今ではふれあう機会がなくなってきている。そういうのって、とても大切だと思う。インドなどではいまだ根付いているよね。

――舞台となった団地ですが、ストックホルムの住宅街ではなく、郊外に今でも見られるというあの団地を選んだ理由は?

ホルム監督:
60~70年代に、政府が実施した「ミリオンプログラム」で、同じ形で同じ間取りの文化住宅が作られました。当時は隣近所で料理を持ち寄ったり、ものを貸し借りしたりといった近所づきあいが盛んでしたが、現代はそういったふれあいがなくなってきました。

パルヴァネの出身地、イランではそれが普通。近所づきあいの文化があり、パルヴァネを通じてかつてのスウェーデンの伝統を思い起こさせてくれました。パルヴァネが新しい風を吹き込むというのは面白いエピソードじゃないかなと思ったんです。

――閉鎖的なあのコミュニティーに、明るいキャラクターのイラン人女性の家族が引っ越してきたというシチュエーション。イラン人の女優さんを起用した理由は?

ホルム監督:
実は、原作者フレドリック・バックマンの奥さんがイラン人なんですよ。彼女の父親はイランで有名な映画監督なんです。バックマンは、その義理の父親から、「映画化されるなら、制作には何も口を出すな」と言われていたそうで、原作者から何も言われることなく、自由にやらせてもらえました。パルヴァネを演じたバハー・パールとはたくさん話を重ねましたね。パルヴァネは、移民のスウェーデン人としてそこにいるということが重要なんだよって。

――北欧、スウェーデン映画といえば、ブラックユーモアが作品のあちこちに見られ、それがとてもスパイスとなり、魅力ですよね。丁寧かつ細かい演出でエピソードがつづられていますが、作りこむ上で、難しかった点、苦労した点はありましたか?

ホルム監督:
オーヴェが首を吊るシーンですね。原作の文面そのままを映像化しようと思うと、なかなかおぞましいシーンになってしまう(笑)。恐ろしいと思わせないようにするためには、ユーモアとのバランスがとても大切。その場面が一番苦労したかな。





――監督がぜひ注目して見てもらいたいというシーン。こだわったシーンは?

ホルム監督:
猫だね(きっぱり)。動物の出演料はとても高いのですが(笑)、どうしても使いたいと思っていました。猫は、マジックとオーランドという、そっくりな猫2匹に出演してもらっています。マジックはとてもアグレッシブでオーランドは大人しい性格なので、状況により使い分けていました。でも、時々間違って、オーヴェが寝ているシーンにマジックを持っていったりして、ニャー!とオーヴェの上で大暴れして大変なことに(笑)猫は大きな立役者。作品の中で非常に大きな役割を果たしてくれたし、成功に導いてくれましたよ。

――回想シーンと現在のシーンがありましたが、インテリアでこだわったところは?

ホルム監督:
インテリアは現代にあるものと過去にあるものをミックスしています。どれが使えるか使えないかを初めに精査しました。時代ものの作品をやるのは楽しい!映画ではそれができるしね。美術スタッフにも見てもらって決めていきます。個人的に気に入っているものを作品の中に盛り込んだりして、作り上げていくプロセスがとても好きですね。歴史がいろんなところに反映されているのはすごく楽しい。だからといって、ノスタルジックになりすぎず、作りこみすぎないよう減らします。常にナチュラルであることを意識しています。

――スウェーデンの車、「サーブ」派と「ボルボ」派のやり取りはコミカルでわかりやすく、面白かったです。何か特別なエピソードはありますか?

ホルム監督:
実は、映画の本筋とは関係なかったけど、気に入ったエピソードだったのであえて入れました(笑)。スウェーデンの男性たちも気に入ってくれましたよ!ただ、GMがサーブを買収した日にオーヴェが号泣するというシーンがあったのですが、それはカットしました。

――初恋のお相手が日系スウェーデン人の女の子だったとか?

ホルム監督:
(「何で知ってるの?」と、顔を真っ赤にしながら)小さいころに出会った女の子です。彼女の家に飾られていた写真がとても印象的でした。それが自分にとって、外国の文化に触れた初めての経験。おかげでとても早い段階で日本を知ることができたと思います。



今回、初来日。初恋の人が日系スウェーデン人だったというのもあり、日本にはとても興味を持っていたというハンネス・ホルム監督。作品を見ていても、きっとロマンチストに違いない!そんな想像をしていたら、まさにそのとおりの、気さくで好奇心旺盛、チャーミングな監督でした。


普通の男性の普通の人生を描いた作品。家に帰ったら、大切な誰かをギュッと抱きしめてほしい。そんな寒い冬にぴったりのハートウォーミングな『幸せなひとりぼっち』は、12月17日(土)全国順次公開です。

【ハンネス・ホルム監督プロフィール】
1962年11月26日生まれ。俳優としてキャリアをスタート。1981年『Inter Rail』でデビュー。テレビシリーズ「S*M*A*S*H」(90)では、出演に加え、監督・脚本の3役をこなし、一躍脚光を浴びる。1997年には当時のスウェーデン映画史上No.1の興行成績を収めた『Adam & Eve』を監督。『青空の背後』(10)はトロント国際映画祭、スウェーデン映画祭2014でも上映された。本作はスウェーデンのアカデミー賞と呼ばれるゴールデン・ビートル賞で最優秀観客賞を受賞。第89回アカデミー外国語映画賞スウェーデン代表作品に選ばれている。


幸せなひとりぼっち

監督・脚本:ハンネス・ホルム 
出演:ロルフ・ラスゴード 
原作:フレドリック・バックマン 訳:坂本あおい(ハヤカワ書房刊)
2015年/スウェーデン/原題:EN MAN SOM HETER OVE /5.1ch/116分/シネスコ/
日本語字幕:柏野文映 後援:スウェーデン大使館  
http://hitori-movie.com/
(C)Tre Vanner Produktion AB. All rights reserved.

2016年12月17日(土) 新宿シネマカリテ・ヒューマントラストシネマ渋谷 他全国順次公開!

▼参考記事
【映画】人生にある笑いと涙と喜びを、いっぱいの愛で教えてくれる『幸せなひとりぼっち』(12/17公開)
【特集】スウェーデン映画祭2014より「山賊のむすめローニャ」「青空の背後」鑑賞レビュー

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