左からマグヌス・ローバック スウェーデン大使、アーリン・リーメスタ ノルウェー大使、ハンネス・ヘイミソン アイスランド大使、ユッカ・シウコサーリ フィンランド大使、フレディ・スヴェイネ デンマーク大使、西村陽一 日本記者クラブ企画委員長(朝日新聞)
12月7日、日本記者クラブにて、北欧5カ国の駐日大使による共同会見が行われました。各国の大使それぞれ披露するテーマを持ち寄り、現在の北欧事情を紹介。日本との取り組みや関わりなども話しました。また、質疑応答では、対ロシア関係、英国のEU離脱、安全保障、難民についてなどに触れました。
デンマークは男女平等、フィンランドは教育、アイスランドはエネルギー、ノルウェーはイノベーション、スウェーデンは報道の自由。北欧の5カ国の大使が一堂に会見を行うという非常に貴重な時間の中で、各国大使の人柄やユーモア、キャラクターが垣間見られた会見となりました。
世界一幸せな国の女性の役割(フレディ・スヴェイネ デンマーク大使)
幸せは、男女平等にある
女性は男性と平等に重要な存在。女性がリードすれば、社会が変わるとスヴェイネ大使。デンマークでは、キャリアも家庭もOKというプラットフォームが出来ています。やる気のある政治家もいて、全てうまく作用しています。
10年前にも駐日デンマーク大使として日本に来ていたスヴェイネ大使は、日本も随分と変わってきたなと感じている一方で、先日あるショッキングな話を聞き、残念な思いをしたそうです。それは、ある女性プロゴルファーと超有名ゴルフクラブの話をしていると、週末は女性はそこでプレーできないという話を聞きました。
デンマークではこういった差別は違法。男性も女性も、同じ平等な権利を持つことができます。「真の意味で男女平等でなくてはならない。幸せになりたければ、Gender Equalityありき」と大使。行動と気持ちと法律がそろっていれば、できるはずだと。
デンマークも努力してきているが、それでも課題はあり、すべて国内でできているとはいえない。そんなとき、他の北欧からインスピレーションを受けているといいます。
スヴェイネ大使は、日本にいる間に、もっとデンマークのことを知ってもらいたいと、Gender Equalityの旗を掲げ、それぞれの面に持続可能な目標が書かれたサッカーボールを記者にパス。熱いプレゼンテーションで、会場を盛り上げました。
シウコサーリ フィンランド大使と司会の西村氏と一緒に広げた旗。「本当は外に掲げたかったんですが、旗を立てるポールがなかった。ぜひ掲げてくださいね」と、スヴェイネ デンマーク大使。
教育全般(ユッカ・シウコサーリ フィンランド大使)
明るい未来をつくるには、教育制度の維持と改善が重要
北欧5カ国は、EUよりも早い段階で互いに協力しあっていると話すシウコサーリ大使。たとえば、外交や安全保障など、同じような価値観を共有しており、一体感も強く、NGOの活動やスポーツを通じて、盛んに交流しているといいます。
フィンランドにとって教育はとても重要なこと。それは子供だけでなく成人も。フィンランドの教育レベルの高さについては、いくつか特徴があるといいます。
一つ目は、学校制度がしっかりとしている、平等な機会があること。小さい頃の勉強時間は少ない。詰め込めばよいのではなく、時間の使い方が重要。二つ目は、教員の質の高さ。先生はフィンランドで最も尊敬され、なりたい人気職業のひとつ。ある程度の枠組みはあるけれど、先生は各自、裁量権が与えられています。三つ目は、コーディングやプログラミングの導入。四つ目は、現象ベースでの学習。どちらかが一方的に受身になったり教えたりするものではなく、「コミュニティの中で学びあう」というのが大切。
最新のOECD世界学力調査PISAの結果(※)によると、エストニアが上位にランクインしたことを挙げ、日本の成績も上がったことを祝福。フィンランドも変わらず上位にいますが、地域格差が目立ってきたのが気になると大使。明るい未来をつくるには、教育制度を維持して改善することだ主張しました。
※PISA関連記事:『北欧諸国の最新結果は?日本は?OECD世界学力調査PISA』(北欧ニュース2016/12/13)
成功物語:60年にわたるエネルギー・インフラの2国間協力(ハンネス・ヘイミソン アイスランド大使)
日本とアイスランドは外交関係樹立60周年
2016年12月8日、アイスランドと日本は正式な外交関係樹立60周年を迎えました。島国で海洋国家、地震や火山、天然の温泉、長寿国、たくさんの海鮮類を消費するというさまざまな共通点を持つ日本とアイスランド。共通の価値観を共有し、友好関係にあるとともに、強力なグローバル関係にありますとヘイミソン大使。
20世紀初頭、貧しい時代からアイスランドが発展を遂げてきのは、天然資源と海洋資源。アイスランドでは、魚の養殖からスポーツ施設のスイミングプール、温室まで、地熱エネルギーを使っています。地熱発電所は来年8基目が稼動する予定。地熱を利用した温室で、ピーマンやトマト、きゅうり、バラなどの切り花や鉢植えを育てており、これらは近隣諸国へ輸出されます。
アイスランドにある最先端の地熱タービンはほぼ日本製。ある地熱タービンは半世紀ずっと使われているそうですが、まだまだ現役。アイスランドで活用しているのはグリーンエネルギーで、持続的なエネルギー。今後も地熱エネルギーで日本との連携を強化していきたいとのことです。
テクノロジーとイノベーション(アーリン・リーメスタ ノルウェー大使)
持続可能なエネルギーと技術で日本と相互協力を
ノルウェーも日本も移行期にあると思うとリーメスタ大使。ノルウェーは石油ベースの産業をやってきたが、イノベーションベースのビジネスの開拓、持続可能な技術を開発をしていきたいと思っているそう。
日本でもますます意識が高まりつつあるグリーンエネルギーへの需要。ノルウェーには風力や火力もありますが、約98%が水力発電。日本は94%、輸入に頼っているので、再生エネルギー、今後は水素エネルギーで、日本とノルウェーが協力できると思うと大使。ノルウェーから日本へ水素を運ぶにあたり、水素を輸送するインフラ開発などで協力しあえることができればとのこと。
ルートは船を使った北欧航路が有力。北極を通ることが重要なカギとなります。当然、環境にも配慮する必要があり、そうなると、ロシアとも協力が必要になります。ノルウェーは北極圏域での実績があるので、イノベーションと持続可能なエネルギーにおいて、日本とは今後協力していきたいと願っていると話しました。
250年の歴史をもつ報道の自由(マグヌス・ローバック スウェーデン大使)
今年で250周年を迎えた「報道の自由法」
今年は、1766年に憲法の一つとして出来たスウェーデンの「報道の自由法」250周年。「表現の自由」というのは、難しい局面を迎えているとローバック大使。1766年に制定された法律は現在でも通用するのか?いくつかの特徴を挙げながら、解説しました。250年前に書かれたという報道の自由法ですが、基本的な部分は変わっていないといいます。
今日の課題としては、ニュースの消費がまったく変わってしまったこと。独立したジャーナリズムの存続の危機を挙げました。日本人は新聞が好きな人が多く、たくさんの人が読み、うまく時代に適応していると思うと大使。スウェーデンでは苦労している点だとも指摘していました。
また、メディアの自主規制は、非常に重要な側面であるとし、この先メディアは生き残れるのかなど、元ジャーナリストであるローバック大使ならではのテーマと視点で結びました。
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