2017/07/20

【特集】スウェーデンの病院のホスピタルアートを手がけたデザイナー、赤羽美和さんインタビュー

スウェーデンの救急病院に、病院職員と作り上げた斬新な
ホスピタルアートを完成させたデザイナーの赤羽美和さん。
柄だけでなく、そこで生まれた対話や物語全体もパターン化して
表現するという、驚きに満ちた作品とその魅力に迫ります。



「ホスピタルアート」という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか?

たとえば、患者の目に触れるところに絵画やアート作品を置いたり、スウェーデンではピエロがやってきたり、面白いイベント企画やワークショップをして、心をほぐしたり、癒したりする役目のあるものを総称して「ホスピタルアート」や「ケアデザイン」というそうです。

スウェーデンでは、公共建築の新設や改築の際に、全体予算の1%をアートにあてるという法律があり、通称「1%ルール」が1930年代より導入されてきました。さらに、1970年代初頭には、病院でも全体予算の2%をアートにあてることが決定されるなど、いち早くホスピタルアートに着目してきました。

そんなホスピタルアート先進国のスウェ-デンの救急病院「セント・ヨーラン病院」が2013年に行ったアートコンペで、日本人デザイナー、赤羽美和さんのアイデアが選出。病院職員を巻き込んでのユニークなアイデアから作られた作品とは?ホスピタルアートの魅力や効果、スウェーデンの病院で実際に手がけたプロジェクトから感じたことなど、赤羽さんにじっくりと聞きました。


Photo:Hironori Tsukue


病院で働く人で作り上げた、
唯一無二のホスピタルアート

スウェーデン留学中、一時帰国していた時に、スウェーデンのホスピタルアートをめぐるドキュメンタリー番組を見た赤羽さん。病院スタッフと意見交換しながらの制作風景に心惹かれたといいます。スウェーデンの病院のホスピタルアートのコンペの話が舞い込んできたときは、すでにスウェーデン留学を終え、日本に帰国していた赤羽さんですが、挑戦してみようと決意。約200点の中から、赤羽さんのアイデアが採用されました。

病院スタッフが参加して「丸、三角、四角」でドローイングするワークショプを実施。彼らが思い思いに描いた形やパターンを赤羽さんが集約し、切り取ったり、重ねたりしてコラージュして作り上げるという、実際にやってみなければ完成形がわからないという、ユニークかつ斬新な発想でした。

廊下や階段の壁面に飾られたカラフルなパターンデザイン(陶板)と、待合室の壁や救急病棟のガラスのパーティションに施したホワイトやグレーのパターンデザイン(シート)が、2013年5月のプロジェクト開始から、昨年ついに完成しました。


待合室の壁やガラスのパーティションはまるで雪のようにも見えます。どこかぬくもりを感じるのは、人の手が入っているデザインだからこそ。(Photo:Hironori Tsukue)


アートプロジェクト名は「JAM」。
たくさんの人と、柄で繋がりたい

実際に関わった病院スタッフに感想を聞いてみたところ、職員によるワークショップで作るという企画は大好評。「まさか病院に勤めて、丸、三角、四角で何かを描くワークショップをするなんて思ってもみなかった」、「創造的な作業は難しいと思ったけど、丸、三角、四角という形のおかげで簡単に楽しくできた」という声や、「他のスタッフと普段話さないようなことを話したりと、対話のきっかけになった」、「アートへの興味が増し、非常に価値あるものだった」、「建物と調和している」といった好意的な声が多く出たようです。

柄の裏側にある物語全体を受け継ぎ、それをパターン化し、具現化したかったと赤羽さん。関わった全員の思い出と物語が詰まっている完成作品を眺めながら、そこから患者との対話が生まれたり、職員同士のよりよい関係性、コミュニケーションを築くきっかけとなりました。


Photo:Hironori Tsukue


広告制作会社を経て、より長く使われるデザインをつくってみたいと考えていた赤羽さん。プロジェクトを終えてみて、「こういうことがやってみたかったんだ」と気づいたそうです。プロジェクト名は「JAM」。まさにジャズのセッションのようなライブ感のあるアートが誕生しました。「学生のときから漠然と思っていたことが実現しました」と笑顔。

ホスピタルアートプロジェクト「JAM」は、スウェーデンに続き、京都ルネス病院で同プロジェクト第2号となる「JAM2」が誕生しました。「ケアセンターや、保育園や幼稚園といった子供たちなど、JAM3、JAM4と作っていけたら」と前向き。誰もが知る丸と三角と四角で、みんなで作り上げるアートは、病院だけでなく、さまざまな場所で可能性を広げていきそうな予感。


セント・ヨーラン病院で飾られているアート作品「JAM」を再現したもの。現地のものは陶板。「ホスピタルとデザイン展」会場にて。


医療の場におけるデザインの可能性を探る、
「ホスピタルとデザイン展」が六本木で開催中

赤羽美和さんによるスウェーデン セント・ヨーラン病院の緊急病棟改築で実施されたホスピタルアートプロジェクト「JAM」の製作プロセスと、京都ルネス病院で同じストーリーで開催されたワークショップの様子、そこから生まれたパターン作品の展示、さらには、医療、デザイン、アート、食といった多岐にわたる分野で活躍されるゲストを交えたトークセッションが行われる「ホスピタルとデザイン展」が、7月19日より開催されています。

昨日はプレスプレビューとオープニングレセプションが行われ、その内容が明らかに。会場では、赤羽さんが手がけたアートプロジェクトの展示や詳しい解説、プロジェクトに関わった病院スタッフからの貴重なインタビュー映像なども紹介されています。

「展覧会を通じて、考えたり、気づいたりする場となれば」と赤羽さん。豪華ゲスト陣によるトークセッションは22日と23日に開催。「ホスピタルとデザイン展」は、7月25日(火)まで。


会場では、京都ルネス病院に設置されている作品も再現されています。


スウェーデンの病院スタッフによるワークショップで実際に作られたドローイングなども展示されています。



赤羽美和(あかばね みわ)

サーフェイスパターン / グラフィックデザイナー、テキスタイルデザイナー武蔵野美術大学卒。サントリー宣伝制作部を経て、広告制作会社サン・アド。多数の広告制作に携わった後、テキスタイルパターンの永続的なストーリー性に魅せられ北欧スウェーデンへ渡る。スウェーデン国立美術工芸デザイン大学MA取得。現在はサーフェイスパターンデザインを主なフィールドに、デザイナーとして活動、また、対話をテーマに人々を招いたプロジェクトを行う。切り絵やコラージュなどから生まれる遊びの延長のようなスケッチ手法は偶然性を誘い込み、グラフィックとテキスタイルの両軸からもたらされる多彩なアウトプットは、紙やファブリック、空間に至るまで多岐に渡る。

ホスピタルとデザイン展
会期:2017年 7月 19日(水)~25日(火)11:00~20:00 ※最終日7月25日(水)は18:00まで
会場:シンポジア(東京都港区六本木 5-17-1 AXISビル地下1F)
入場:無料 (※7/22&23のトークセッションは有料)
内容:スウェーデンでのセント・ヨーラン病院アートプロジェクトの展示と
医療の場におけるクリエイティブの可能性についてのトークセッション
HP:https://hwithd.tumblr.com/
Facebookページ:https://www.facebook.com/hwithd

<トークセッション>
医療に対してクリエイティブが出来ることテーマに、医療関係者、デザイナー、アーティストなどを交えたトークセッションを開催。医療現場でのデザイン、アートの可能性、新しいかたちについて語り合います。
トークセッション詳細&申込:http://hwithdtalk.peatix.com/

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