2018/08/01

【特集】「布と人との新しい関わり方を作っていきたい」テキスタイルデザイナー 氷室友里インタビュー

デザイン活動に大きな影響を与えた「ジャガード織り」に出会い、
手を動かして何かを作る喜びを再び教えてくれたのは、フィンランドでした。



猛暑続く7月、やわらかな笑顔で迎えてくれた、テキスタイルデザイナーの氷室友里さん。5月に引っ越したばかりというスタジオにおじゃましてきました。ハサミを入れて下地の柄を浮かび上がらせて楽しむもの、リバーシブルのもの、角度によって柄に変化があるものなど、ちょっとした遊びと仕掛けとユーモアが詰まった氷室さんのこれまでのテキスタイル作品をたっぷりと見せていただきました。

昨年、インテリア ライフスタイル リビング ヤング デザイナー アワード2017を受賞。2年連続でミラノサローネサテリテに出展し、今年、ミラノサローネサテリテアワード2018 3rd PRIZEを受賞するなど、国際的な賞を獲得。また、カッシーナ・イクスシー青山本店でのクリスマスインスタレーションや、ヒルトン福岡シーホーク内室内プールまでのアプローチ一帯のテキスタイルディレクションなども手がけ、ますます多忙をきわめる氷室さん。お話できるのも今のうち!(笑)と時間を作っていただきました!

「布と人との関わりがテーマ」と話す氷室さん。フィンランドでの暮らしから感じたこと、どんなことが今のテキスタイルデザインに反映されているのか。作品について、また、将来やってみたいことなどを聞きました。



――どういうきっかけでフィンランドへ?フィンランドで教育を受ける中で、日本との違いを感じましたか?

氷室さん:
大学院の交換留学先を探していたら、韓国かフィンランドの2択で(笑)母校の多摩美術大学にはニットの授業がなく、ニットを勉強したいと思っていたので、フィンランドへ行くことになりました。ただ、フィンランドで授業を受けているうちに、ニットよりジャガード織りに興味がわいてきたんです。日本との違いで感じたのは、日本はより自分の技を磨くことに集中する感じがあるんですけど、フィンランドは誰かに生産を依頼する前提で、デザインを伝えることに集中して取り組む教育だと感じました。 

フィンランドで身近なジャガード織りに触れたことがとても大きいです。日本にももちろんジャガード織りはあるんですが、大学の織り機が壊れていて使えなかったんです。フィンランドで、ひたすら手を動かして作ってみる機会があって。何かを作る時間が多いのにも驚きました。小さい頃から手を動かして何かを作りあげるのが好きだったんですが、その喜びや楽しさを思い出しましたね。あと、フィンランドに行って、考え方とかがすごく柔軟になったと思います。

フィンランドのホームステイ先の家もそうでしたが、色をふんだんに取り入れようとしていて、とても部屋が明るく感じました。テキスタイルで毎日の暮らしを楽しんでいらっしゃいますよね。テキスタイルは生活になくても生きていけるけれど、あるとすごく楽しいよね、というのを実感できたのが良かったです。

――氷室さんの代表作、ジャガード織りのテキスタイル「SNIP SNAP」は、ハサミを入れて、下から出てくる柄を楽しむことができるという、非常に画期的なものですが、これは氷室さん自身が開発したものですか?こういった特殊なテキスタイルの開発は今後もやっていきたいですか?

氷室さん:
はい、私が開発しました。元々プロダクトデザイナーになりたくて、素材に自分の強みを持ちたいと思っていました。構造を考えたりするのが好きで、小さい頃からどちらかというと絵を描くよりも工作が好きでした。新しい素材や生地を生み出すといった作業が好きですね。常にいろんな知識を蓄えておくことがとても大切だと感じています。というのも、例えばクライアントさんからリクエストがあったときに、「あの技術が使えるかも!」と迅速に対応できるから。工場を回り、どういった技術があるのかを知るのも好きです。

テキスタイルは、例えばソファにかけるとソファの形に、人にかけるとその人の形になって変化しますよね。そういったところに魅力を感じます。ハサミを入れる布を作ったのは、布で人とコミュニケーションができたらと思ったからです。それは常に意識していることで、プロダクトデザイン寄りの考え方だと思います。ジャガード織りでまた何か作りたいですね。開発したいです。テキスタイルを考えるときは、布と人との関わりを、プロダクトとして考えるときは、それがどう使われるのか、ものと人との関わりを大切に考えています。

――2016年に独立して2年ほど経ちますが、良かったこと、また、大変だったことを教えてください。

氷室さん:
前職はネクタイブランドのデザイナーでした。独立して良かったなと思う点は、前は目の前のことをこなすのに精一杯で素材の開発に時間をとることができなかったんですが、今は開発や実験などに時間をとれるようになりました。やりたいことをためて、いいタイミングがあったら出す、というスタイルが自分に合っていると思います。あとは、素直に純粋にものづくりを楽しめているところですかね。大変だと思うことは今のところありません。時間もかかるけれど、考えているときも、制作しているときも、打ち合わせ自体も全部楽しいですね。

海外での商品の取り扱いはありますが、まだ海外企業向けに作ったものはありません。営業中なのでもっと力を入れていきたいと思っています。クライアントワークとオリジナルデザインワークは相乗効果を感じているので、どちらも増やしていけたらと思っています。

――ハンカチといった小物のテキスタイルデザインから、ショップやホテルのインスタレーションやアートワーク制作にいたるまで、さまざまなところで活躍されていますが、近い将来、やってみたいことはありますか?

氷室さん:
布の強みを生かして、空間や建築系のお仕事にも興味があります。あとは、ホテルなど大きなフロアの、大きな空間のカーペットなどもやってみたいです。垂直に布を見るというのはあっても、水平に布を見るというのはまた違う面白さがあると思うので。時間の関係で光の入り方が違うカーテンにも魅力を感じます。

――ありがとうございました!今後のご活躍、作品を楽しみにしています!



<氷室さん作品ギャラリー>
「テキスタイルは平面である」という概念を打ち砕く氷室さんのテキスタイル作品。彼女のアプローチには常にプロダクトデザイン的な視点があり、感覚的にも視覚的にも楽しく、その魅力に引き込まれます。


見る角度を変えると柄が変わるテキスタイル。こちらの作品は「umi」。収縮する糸を使って蛇腹のように波打ったテキスタイルを開発。角度によってビーチになったり海の中になったりと、変化が生まれます。


リバーシブルで柄が異なるテキスタイル。裏表で夏と冬の様子を描いています。柄の出方を少し操作して、サーフボードがスノーボードになったり、ワンちゃんが洋服を着たりと変化をつけたユニークな作品。


左は氷室さんの代表作ともいえるジャガード織りのテキスタイル「SNIP SNAP」を使った「LAPLAND」。冬のラップランドの氷が張った湖をイメージ。氷を割るようにハサミを入れると青い湖が出現。隠れている魚を見つけるのも面白い。右上は電線を巻く防水のクレープ紙の端材を利用したレジャーシート。軽量かつ丈夫で耐水性あり。

また、右下は、今年のミラノサローネで受賞した「ミラノサローネサテリテアワード2018 3rd PRIZE」の賞状と、昨年のインテリア ライフスタイル リビングで受賞した「インテリア ライフスタイル リビング ヤング デザイナー アワード2017」のトロフィー。賞状とトロフィーの前にあるのは、組み紐で作られたブロックのおもちゃ。これは、素材とコミュニケーションを取りながら組み立てていける頭を使うブロックで、いろんなパターンを作ることができます。氷室さんのオリジナル作品。


母の日に向けてデザインしたハンカチ。メーカーさんがいつも付けるタグを見て「これを使いたい」と思い、花束のように吊り下げて飾ることを最初からイメージしてデザインしたといいます。ケースギャラリーでの美しい空間ディスプレイも話題となりました。空間デザインを担当したのは、デンマークで家具を学んだ経歴を持つHamanishi DESIGNさん。


新しい塗料が開発されたときに話をもらったというのがこちら。角度によってチラッと柄が浮かびあがる塗料を使ったハンカチ。「使うものがあって、それを展開させて、というのが好きですね」と氷室さん。サウナと氷上でのひとときを楽しむ姿がフィンランドを彷彿させるデザイン。実際暮らしてみないとわからないような、クスッとしてしまう細かい表現を見つけるのも楽しい。



今年5月から7月に開催されたファミリア×氷室さんのコラボイベントが、この冬もファミリア銀座本店にて開催決定。新作も披露されますよ!

YURI HIMURO SNIP SNAP EXHIBITION
会期:2018年12月5日(水)~2019年1月20日(日)
会場:ファミリア銀座本店1Fイベントスペース「CUBiE」

▼氷室友里公式HP http://www.h-m-r.net
イチョウの並木道が近いということで並木道をイメージしたというカッシーナ・イクスシー青山本店でのクリスマスインスタレーションや、ヒルトン福岡シーホーク内室内プールまでのアプローチ一帯のテキスタイルディレクション作品などもHPで見られます。年齢制限25歳以下は利用不可という大人のナイトプールへ向かう壁面は、南国の鳥で自由の象徴である「ケツァール」をモチーフに夜の森をイメージ。裂いた布を一筆書きのように刺繍していくという、本来ストールなどに使う技法を大胆に採用。雰囲気のある空間に仕上げました。

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