2020/03/09

【特集】偉大なアーティストであり母、リサ・ラーソンの長女ヨハンナ・ラーソン来日インタビュー

温もりあふれる作品で人々を魅了し続ける陶芸家、リサ・ラーソン。
創作エピソード、アメリカ時代、母リサについて、長女ヨハンナが語る。


リサ・ラーソンさんの長女ヨハンナ・ラーソンさん。手に持っていただいたのは、展覧会公式図録(価格:2,640円〔税込〕)。グラフィックデザインを担当されました。松屋銀座会場エントランスも、ヨハンナさんがデザインしたグラフィックデザインが採用されていました。


スウェーデンを代表する陶芸家、リサ・ラーソン。「リサ・ラーソン展 創作と出会いをめぐる旅」が松屋銀座にて開催されました(3月4日に閉幕)。リサ・ラーソンの展覧会としては3回目。前回の2017年は松屋銀座を皮切りに全国7会場を巡りました。今回も松屋銀座会場の後、約2年をかけて全国を巡回する予定です。

同展では、リサ・ラーソンが初期から近年の代表作まで約200点と共に、影響を受けた巨匠スティグ・リンドベリをはじめとする作家作品約20点が披露されています。2月23日の初日のオープニングセレモニーには、来日した長女ヨハンナ・ラーソン氏や長男マティアス・ラーソン氏が出席しました。

米寿を迎えてなお、楽しみながら自分のペースで作品を作り続けるリサ・ラーソン。アーティスト、リサ・ラーソンの作品はどのようにして生まれるのか。モチーフ選び、大きく影響を受けた場所、もの、人は?また、ヨハンナさんたち子供にとって、母リサさんはどんなお母さんなのでしょうか?お話を聞いてきました。



モチーフとなる動物の中にも、自分の好みが。
賢くて人気のあのワンちゃんは作らない?!

――リサさんの陶芸作品は、人物も制作されていますが、日本では動物モチーフが特に人気でよく知られています。初めから動物が多かったのでしょうか?きっかけは?

ヨハンナさん:
学生の頃は人物を作っていました。日本では動物が人気なので特に際立って感じるかもしれませんが、実際にリサがこれまでに制作したものが掲載された図録を見てみたところ、実は人物と動物は半々くらいなんです。

――半々なんですね!意外でした。なぜ動物モチーフが増えていったのですか?

ヨハンナさん:
動物モチーフを手がけるきっかけとなったのは、グスタフスベリ社ですね。ネコのフィギュアを見て、スティグ・リンドベリが「いいね!」と太鼓判を押し、シリーズ化することに。少ないよりもシリーズにしたほうが良いということで動物モチーフが増えました。それらが日本に紹介されていったというわけです。

――動物でも犬やネコといった(ライオンなどは例外ですが)身近な動物や人の姿が多い気がします。人も動物も素朴で愛らしい表情が特徴でもあります。創作にあたり、モチーフはどのようにして選んでいるのでしょうか?

ヨハンナさん:
テレビで動物の番組を見たり、雑誌「ナショナルジオグラフィック」を見たりと、素材は結構いたるところにあります。例えば絶滅危惧種のみを集めたシリーズなども作りました。次はこれ!というものは特になく、その時に依頼されたものや、その時にふと浮かび上がるものを作っているようですよ。

知人の、「可愛いブラックラブラドールレトリバーがいるのよ。リサさんはたくさんの犬を作っているけれど、ラブラドールは作らないのかしら?」という話をリサにしたところ、「ラブラドールほど(作るのが)つまらない犬はいないわ(笑)」と答えたんです。いくら可愛くても、彼女の作風や素材に合う合わないがあるようで、よりユーモラスで顔かたちが面白いものが良いらしいのです。

――ラブラドールは常にスマートな雰囲気があるからでしょうか。そういえば、リサさんの作る犬は、困ったような、情けないような、なんとも言えない表情の犬が多いですね(あえて、リサさんの作るラブラドールを見てみたいような……)。

ヨハンナさん:
ふと浮かび上がったものの中でも、何でも良いわけではないみたいですね(笑)


リサとグンナル(グスタフスベリのリサ・ラーソンスタジオにて) 1960年代 ⓒ Bo Dahlin


夫と滞在、刺激を受けたアメリカ時代。
あの名ギタリストの写真をアトリエに!

――今回の展覧会では、家族で過ごしたアメリカでの1年に影響を受けた作品が展示されていますが、ヨハンナさんたちが小さい頃、良く出かけていた旅先はどんなところでしたか?リサさんのお気に入りの旅先は?

ヨハンナさん:
リサはスウェーデン南部のスコーネ地方がお気に入りです。ストックホルムから南部に移動するだけですけど、この国内の旅がリサの一番のお気に入り。若い頃は戦争でなかなか国外には行けなかったようですが、私達(子供)が生まれるまでは、スペインやフランス、イタリアに父グンナルと夫婦で行っていたようです。

――創作に大きく影響を受けた場所は?アメリカ以外でありますか?

ヨハンナさん:
影響を受けた場所とすれば、やはり今回の展示でも紹介しているようにアメリカからは大きな刺激を受けたようです。70年代、カリフォルニア大学バークレー校に夫婦で在学し、ヒッピー文化などにも影響を受けています。ポスターアートなんかもアメリカから。リサはジミ・ヘンドリックスが好きで、アトリエに彼の写真を飾っていたようです。

(マティアスさん:ジャニス・ジョプリン、ソウルなども好きだったよね。)

――リサさんのアメリカ時代の話はとても新鮮ですね!

ヨハンナさん:
影響を受けた場所といえば、アメリカのほかには、やはり日本でしょうか。もちろん国そのものもありますが、1970年に大阪万博で初めて日本を訪れ、そこで陶芸家の濱田庄司さんと会ったこと。そして、大皿をプレゼントしてもらったこと。日本での出会いはリサにとって、とてつもなく大きなものとなりました。


1970年の大阪万博で初来日。グスタフスベリ社の同僚たちと、益子に住む濱田氏の家を訪ねたリサ。その時に濱田氏から贈られた「柿釉大皿」。奥に見える作品は、スウェーデン在住の日本人陶芸家、藤井恵美氏の「煎茶器と長皿」。1966年、グスタフスベリ社にインターンシップの希望を出し、リサのスタジオで実習生として勤務。


――では最後に、アーティスト、リサ・ラーソンではなく、お母さまとしてのリサさんのことを伺いたいです。リサさんは、どんなお母さんですか?

ヨハンナさん:
私達が幼い頃、リサは仕事で多忙だった為、当時リサは「あまり良くないママだったと思うわ」と言うんですけれど、私達にはそんな記憶は全くありません。むしろ、いつも明るくて、厳しいというよりは優しくて、可愛いママです。父グンナルが私を膝に座らせて、リサは赤ちゃんだったマティアスを抱っこしていましたね。

ラーソン家では、週末の土曜の朝、まず部屋を家族みんなで一斉に片付けや掃除をしてキレイにしてから、何か楽しいことをするというのがルーティーンでした。

――お忙しいところ、お時間ありがとうございました!


リサさんの長男マティアスさん(左)と、長女ヨハンナさん(右)。家族でリサさんの活動を支えます。

リサ・ラーソン展 創作と出会いをめぐる旅 ※松屋銀座は終了
会期:2020年2月23日(祝・日)~3月4日(水)10~20時
入場は閉場の30分前まで。最終日は17時閉場。※閉場時間は変更になる場合あり
会場:松屋銀座8階イベントスクエア

<巡回先(予定)>
滋賀県立陶芸の森 陶芸館(滋賀) 2020年3月21日(土)~5月31日(日)
いわき市立美術館(福島) 2020年7月18日(土)~8月30日(日)
北海道立函館美術館(北海道) 2020年10月3日(土)~11月29日(日)
※約2年間で全国巡回予定

▼ブログ記事:筆者のこぼれ話と人気のカプセルフィギュアに触れています。

ⓒ Lisa Larson

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