2022/10/24

【特集】フィンレイソンに縁の深いフォルッサより来日!フィンレイソン展のキーマン2人にインタビュー

フィンランドのテキスタイルの歴史を知りつくす町!
森に囲まれた小さな、フォルッサってどんなところ?



フォルッサ博物館の館長、カティ・キビマキさん(右)と、今春オープンしたフォルッサ博物館併設のテキスタイルパターンデザインセンター「クオシケスクス」に携わるヴェサラ玲華さん(左)。


2021年より、「創業200周年記念 フィンレイソン展」が全国を巡回中。9月21日から10月3日までは、首都圏で初めて、京王百貨店新宿店で開催されました。

展覧会開催の際に、フィンレイソンにまつわる多くの重要な資料やアーカイブの生地を所蔵し、フィンレイソン展に提供しているフォルッサ博物館の館長、カティ・キビマキさんと、フィンレイソンやフォルッサ博物館併設のデザインセンター「クオシケスクス」のプロジェクトをはじめ、講演会など幅広く活動するフォルッサ在住のヴェサラ玲華さんが来日。フォルッサ博物館は一体どんなところなのか、また、ヘルシンキから車で1~2時間行ったところにあるフォルッサという町の魅力について、さらには、フィンレイソンとの関係、デザイナーさんのエピソードなど、詳しくお話していただきました。

10月30日まで、山梨県富士吉田市にて開催中の「旅するテキスタイル~フィンレイソンのプリントが生まれた町、 フォルッサより~」と併設パネル展「フィンレイソンとフォルッサ」にも携わっているお二人。そこでのフィンレイソンのアートイベントについてもお聞きしました。


フィンレイソン展(京王百貨店新宿店)会場より。



フォルッサは、フィンランド初のテキスタイルプリント工場が誕生した町。
そこにある博物館は、かつての工員やデザイナーらが気軽に訪れ、
彼らの貴重な知識や経験を次世代に紡ぐ、交流の場になっています。




――カティさんは今回3度目の来日とのことですが、久々の日本はいかがですか?

カティ・キビマキさん(以下カティさん):
最初の来日は約25年前になります。日本でフィンランドの芸術展に関わりました。2度目は約20年前。また芸術関係で、フィンランドのアーティストたちとの交流旅行として訪れ、山形の大学で講演も行いましたよ。今回は日本人の同僚(玲華さん)と一緒なので、同僚を通して、もっと深く日本を知ることができた気がします。

――玲華さんは、フィンランド人と結婚して、現在フォルッサ在住ですが、フィンランドに渡った当時のことなどもお話していただけますか?

ヴェサラ玲華さん(以下玲華さん):
4年ぶりの帰国になります。今回は特に旅行せずに、実家で過ごす予定ですね。フィンランドに渡った1995年当時は、あまりフィンランドのことを知らない状態でした(苦笑)

フォルッサは当時、フィンレイソンのデザイナーをしていた(すでに定年退職されている)日本人もいらしたのですが、あまり家から出る方ではなかったようでした。なので、日本人をはじめ、アジア人はかなり珍しい存在でした。私はあちこち積極的に出かけていってましたね。(流暢なフィンランド語ですよね、と尋ねたところ)言葉ですか?そうですね、やはり現地の言葉がわかると、生活を色々見ることができて楽しいので、がんばって話すようにしました。

――日本ではまだあまり馴染みのない名前の町ですが、お二人に縁のあるフォルッサ博物館と、春に開館したばかりのテキスタイルパターンデザインセンター「クオシケスクス」について教えてください。場所は、首都ヘルシンキと第二の都市タンペレ、第三の都市トゥルクを三角で繋いだら、ちょうど真ん中に位置する町ですね。

カティさん:
フォルッサは、フィンランド初のテキスタイルプリント工場が設立されたところで、その後、フィンレイソンのデザインアトリエも作られました。フォルッサ博物館では、地元の歴史や貴重なプリントテキスタイルを紹介しています。

今年の春には、フォルッサ博物館の管轄下となるテキスタイルパターンデザインセンター「クオシケスクス」がオープンしました。ここでは、フィンランドのプリントデザインの歴史を紹介しています。テキスタイルのインスタレーションをやったり、知識を得たりできる場所で、芸術的要素も取り入れています。体験型のセンターで、触れて楽しみながら学べる場所になっています。

私自身は、フォルッサ博物館の館長なので、事務的、経営的なことを担当しています。また、昔のフィンレイソンのデザイナーさんを一人ずつ選んで、毎年その人を特集した展覧会を企画しています。デザイナーさんたちへのインタビュー、作品を集めること、所蔵品の中から何を展示するかなどを考えています。

玲華さん:
私は、クオシケスクスのインスタレーションや展示の企画に携わっています。アーカイブから使える生地が決まっているので、そこから選びながらティスプレイを決めていくのが面白いですね。

あと、クオシケスクスには、子どもたちが毎日のようにやって来ます。例えば、幼稚園の子どもたちでも勉強してから来るので、フォルッサの歴史もよく知っていることに驚かされます。分かって学びに来ているので、質問のレベルも高い!他にも、造形学校の学生さんとも色々コラボレーションをしています。


京王百貨店新宿店会場より。フィンレイソンのデザインを多数手掛けたアイニ・ヴァーリさんの作品コーナーは圧巻。存在感を放っていました。


――1951年、フィンレイソン社によってフィンランド初のデザインアトリエがフォルッサに作られ、たくさんのパターンが生まれました。フォルッサ博物館には、そのデザイナーたちの原画や生地が所蔵されていますが、歴代デザイナーたちのデザインの魅力を教えてください。

カティさん:
フィンレイソンのテキスタイルは、グループ全員で一緒にデザインします。それぞれのデザインを見ると、それぞれの個性あって、趣がありますね。デザイナー自身がアーティストであり、デザイナーの名前を表に出すテキスタイルブランドもありますが、フィンレイソンの場合は名前を出しません。良いものを作りたいという思いがあるから、わざわざ主張する必要がないのです。自由に自分たちで一緒に作っていく“雰囲気”が強みであり、そのことが魅力的なデザインに繋がっていると思います。

フィンレイソンのデザインは、顧客の要望を聞いて、顧客の視点に合わせて作っていました。PMK(国内のコットンをプロモーションするために、まとめて受注したりするマーケティングセールスの会社)の中に入っている企業(フォルッサを含め5つの会社)で一番売れたデザインをコレクションごとに貼り出し、次に生かすために、デザイナーたちはそれらのデータを参考にして、分析して、より顧客に喜ばれるものを目指していました。

――フォルッサには、フィンレイソンの代表的なデザインを手掛けたスター・デザイナーさんたちが今も元気に暮らしているそうですが、どんな方々ですか?

玲華さん:
デザイナーさんは引退して退職した後も、フォルッサに残って住んでいる人が多いですよ。当時の思い出を楽しそうに話してくれます。例えば、「コロナ」「オンップ(リンゴ)」、「タイミ」といった数々の代表作を持ち、フィンレイソンのデザインに多数関わったアイニ・ヴァーリさんは、今年91歳になりますが、とても明るくてエネルギッシュな方です。生のお話を聞けるのは本当に貴重。当時の彼女たちの思い出話なども、次世代に繋げていきたいなと思います。

町の中にあるホテル内に、「アイニさんの部屋」という、アイニさんのデザインだけで構成された部屋があります。それは、テキスタイルデザインだけでなく、水彩画など、アイニさんが手掛けたアートピースなども飾られている部屋になっています。




富士吉田市で10月30日まで開催中の「旅するテキスタイル展」会場より。


――フィンレイソンの展覧会が国内を巡回中ですが、富士吉田市の「旅するテキスタイル展」も10月30日まで開催されています。巡回展とともに、見どころはどんなところですか?注目ポイントなども教えてください。

カティさん:
フィンレイソン展のほうは、足を運ぶ機会があったら、ぜひ、フォルッサ博物館所蔵の原画を見ていただきたいですね。手描きの跡が残っている貴重な原画は、完成品のテキスタイルと上手く並べて展示されていると思うので、見比べるなどして、じっくりと見ていただきたいです。

玲華さん:
富士吉田のほうは、テキスタイルの町とのコラボレーションということで、ミュージアムのような展覧会でありながら、展示やインスタレーションなどを通じて、知識も得ることができる体験型のアートイベントになっています。米ミュージシャンが手掛けた音楽もあり、目からだけでなく、耳でも楽しめます。また、クオシクスケスを感じられるような映像も。テキスタイルの世界を旅してもらおうと工夫された、五感で体験できる展示イベントです。ここでは、見て触ることができるので、まるでフォルッサのクオシクスケスのような体験ができます。
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