Photo by Julia Kivelä (c) Visit Finland ※画像はイメージ |
2017年から2018年まで、2年にわたり、「ベーシックインカム」導入の実験が行われたフィンランド。ベーシックインカムとは、25歳から58歳までの無作為に選ばれた失業者2000人を対象に、毎月560ユーロ(日本円で約6万5千円)が支給される制度で、所得制限はなく、就業後ももらい続けることができる。世界が注目したこの実験は今年5月上旬、フィンランド政府が結果を公表した。
2017年12月、北欧5カ国の駐日大使による合同記者会見の中で、シウコサーリ前駐日フィンランド大使はベーシックインカムについて、「社会保障制度を簡素化し、貧困援助ではなく雇用創出が目的。労働形態の多様化にともない、自営業やフリーランサーといった職業にも合っているシステム」と話していた。
ベーシックインカムの導入による雇用創出効果はどうだったのか。対象となった2017年11月から2018年10月までの期間によると、失業手当受給者の平均就業日数は73日間で、ベーシックインカム受給者は78日間と僅かに多かったが、雇用効果があったとはあまり言えない結果となった。
ただ、最初の1年間は失業手当の給付条件をより厳しく変更したアクティベーションモデルが導入されておらず、2年目は導入されたため、明確には判断できない部分もあるようだ。
しかし、ある一定のグループ層、たとえば、ベーシックインカム受給者に子供がいる家族の場合、実験の1年目も2年目も雇用率が向上したという。実験数が少ないため、異なるグループ層でどういう結果になったかは不確かな部分がある。
全体の雇用効果としては小さかったが、精神的な面でプラスの面が見られた。ベーシックインカム受給者への実験終了直後の電話調査で、健康面、精神面、経済的な幸福度ついて尋ねたところ、失業手当受給者よりも生活に満足しており、精神的負担が少なかったと回答。社会制度や他者への信頼度が高く、自身の将来や能力に高い自信を示す人もいたという。実験期間中、ベーシックインカム受給者は経済的に「快適に過ごせている」「大丈夫」と肯定的に回答している人は60%、失業手当受給者では52%だった。
また、計81人のベーシックインカム受給者へのインタビューでは、明らかに雇用に良い影響を与えたと話す人もいる一方で、影響は小さいと話す人もいたが、経済的に守られているという精神的なゆとりからか、社会活動に参加するなど新しいことに挑戦し、そういった機会を増やした人もいる。
フィンランドの社会保障制度をどのように再構築し、適切に対応できるかを研究する目的でもあったベーシックインカムの実験。政府は、社会保障制度の可能性について貴重な情報となったと分析している。
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社会保障改革:ベーシックインカムの実験(ユッカ・シウコサーリ フィンランド前駐日フィンランド大使)「ベーシックインカム導入は、雇用創出が目的で貧困援助ではない」
http://www.hokuwalk.com/Spe/page/page_id/022018012400015001/
2017年12月に日本記者クラブにて開催『【特集】北欧モデル最新情報――北欧5カ国大使による共同記者会見(後編)』 より
北欧ニュース編集員
2年間にわたるフィンランドのベーシックインカム導入の実験結果が発表されました。世界初となる全国的な試みということで、世界をはじめ、他の北欧諸国からも注目を浴びていました。失業率を下げるという効果は、この2年の実験で結果としてあまり出なかったようですが、経済的な安全保障により精神的な幸福感を得られた人が多く見られたというのは今後に繋がりそうですね。