『ペット安楽死請負人』(原題:Euthanizer) (c)It's Alive Films
今年で30回目というアニバーサリーイヤーを迎える「東京国際映画祭」。各部門の全ラインナップ、各イベントなど、アニバーサリーにふさわしい盛りだくさんな内容が発表されました。
気になる北欧からの出品はあるのか?!今年は、88の国と地域、1538本の応募の中から、15作品がコンペティション部門に選出。北欧からは、フィンランド映画『ペット安楽死請負人』の1作品がノミネート。アジアンプレミアとなります。
表向きの仕事は自動車修理工。しかし、裏では動物の殺処分を請け負う男が主人公。無責任な依頼主に苦言を呈しつつ、冷静に仕事をこなしていました。しかし、ある犬を生かすことで、事態は一変。動物の権利や命の価値、人間の愚かさを鋭く描いた作品とのことです。
昨年は社会情勢色の強い作品が多く見られましたが、コンペティション部門の選定を担当する矢田部吉彦PDの話では、「今年は、個人の内面や生き方、心の内側に迫る内容を描いた作品が目立った」とのこと。まさに、北欧映画が得意とする表現。今年は他部門での北欧からの作品はなく、少し寂しさを感じますが、『ペット安楽死請負人』が、どんなアプローチで心を揺さぶり、我々に訴えてくるのか、今から楽しみです。
(左から)コンペティション部門『最低。』より、瀬々敬久監督、森口彩乃、佐々木心音、山田愛奈。コンペティション部門『勝手にふるえてろ』より、大九明子監督。アニメーション特集「映画監督 原恵一の世界」より、原恵一監督
今年、日本からはコンペティション部門に『最低。』と『勝手にふるえてろ』の2作品が選出されました。ゲストとして『最低。』から、瀬々敬久監督と主演の森口彩乃、佐々木心音、山田愛奈が、『勝手にふるえてろ』からは大九明子監督が登壇。さらには、アニメーション特集「映画監督 原恵一の世界」から、原恵一監督も登場しました。
コンペティション部門に選出された『最低。』は、AV女優の友人関係や家族関係、それを取り巻く日常が緻密に描かれた作品。瀬々敬久監督は、「現役AV女優の紗倉まなさんの小説を映画化したもの。アダルトビデオというと偏見的な目で見られがちだが、そういう偏見なく映画祭で選んでいただいた」と、感謝の気持ちを語り、綿矢りさの小説を映画化した『勝手にふるえてろ』を手がけた大久明子監督は、「映画を撮るたび、いつも誰かにとって大事な映画になればいいなと思っていた。まさかこのような形で世界の皆さんにご覧頂けることになるとは」と、驚きを隠せない様子。主演の松岡茉優は、この日残念ながら登壇せずでしたが、ビデオメッセージで元気に作品をアピールしていました。
ちなみに、今年のコンペティション部門の審査委員長は、アメリカの俳優で映画監督としても活躍するトミー・リー・ジョーンズ。審査委員には、日本の俳優、永瀬正敏も。どんな作品がグランプリに輝くのでしょうか。
また、今年のアニメーション特集は、「映画監督 原恵一の世界」。映画クレヨンしんちゃんシリーズなどで知られる原恵一監督作品が特集上映されます。この日着用していたTシャツは、「今作っている作品のヒント」だそう。まだまだ詳しいことは言えないとのことですが、「撮って撮って」とお茶目な監督。
特に思い入れのある作品を聞かれた原監督は、「人に見られて恥ずかしいものは一本も作ってきていないつもりで、どの作品も自分のキャリアの中でとても大事。ただ、(特に評判の高かった)『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』は、すごく大きいターニングポイントになった」と感じているとのこと。「海外メディアやお客さまにどんな評価をもらえるか楽しみ」と話していました。
原監督の話で印象的だったのは、周りから、子供向け映画なのに人がたくさん死んでいく内容はどうなのか、と大反対された時に、「自分が小さい頃は主人公が死んで終わったりする物語が結構たくさんあって、それを見て育っていても特にひねくれて育ってはいないし、アニメだからといって、ファンタジックになりすぎないようにしている。嘘くさくなってしまうから」という言葉。
たとえば、デンマークのアンデルセン童話も、かなり悲しく、せつない物語が多い。そこに描かれているのは悲しみだけなのか、希望はないのか?それを読んで育ったデンマークの子供たちは?目を背けず、きちんとした現実的な内容を伝え、考える大切さを、原監督の言葉から感じました。子供たちは心を鍛え、本当の強さと優しさを身につけていく気がします。
「東京国際映画祭」期間中、TOHOシネマズ六本木ヒルズにてアニメーション特集上映作品を鑑賞すると、全員にこちらの素敵なイラストが表紙となった、「映画監督 原 恵一の世界 オフィシャルガイド」がもらえるので、お見逃しなく!
また、30回を迎えるにあたり、特別なアニバーサリービジュアルも公開。新たな30年を祝う「祝祭観」と「TOKYO」の魅力を届けるビジュアルは、写真家で映画監督でもある蜷川実花さんの写真が起用されました。
さらに、プログラム上映に加えて、6つのスクリーンでオールナイト上映を行う「ミッドナイト・フィルム・フェス!」や、六本木ヒルズアリーナで約30本の作品を無料上映する「Cinema Arena 30」、映画とコンサートを融合させた「ゴジラ・シネマ・コンサート」、「シネマカフェ」はバッジがあれば誰でも入場可能になるそうです。
話題のオープニング作品は、国民的コミック「ハガレン」を実写映画化した超大作、山田涼介主演の『鋼の錬金術師』、オープニングスペシャルとして、日中共同作品、チェン・カイコー監督の『空海―KU-KAI―』が上映されます。そして、クロージングを飾るのが、アル・ゴア元米副大統領主演のドキュメンタリー『不都合な真実2:放置された地球』。来日が決定しているというゴア元米副大統領の話にも注目です。クロージングセレモニーでは、各賞が発表される予定。
ゲストによるQ&Aやトークショーなど、映画祭ならではのイベントも要チェック!第30回東京国際映画祭は、10月25日(水)から11月3日(金・祝)の10日間、六本木ヒルズ、EXシアター六本木ほかにて開催!
第30回東京国際映画祭
開催期間:2017年10月25日(水)~11月3日(金・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区)ほか都内の各劇場および施設・ホール
公式サイト:http://www.tiff-jp.net
▼関連記事
コンペ部門にサーミの少女を描いた作品が登場!第29回東京国際映画祭(10/25-11/3)