今年は、北欧の話題作がぞくぞくと日本でも劇場公開されています。そのうちの一つが、『トム・オブ・フィンランド』。第90回米アカデミー賞外国映画賞フィンランド代表に選出され、第40回ヨーテボリ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞受賞するなど、ゲイ・アートの先駆的存在として知られるトウコ・ラークソネンの壮絶な半生を描いた作品が、8月にやってきます。
ゲイを含む社会的にマイノリティーな立場に置かれているLGBTに対して、フィンランドをはじめとする北欧は、世界の中でもLGBTに寛容な国として知られています。資源が少ないため、人は国の財産。とはいえ、今では寛容なフィンランドでも、かつて同性愛は法律で禁止され、罪人のように扱われた時代がありました。
トウコもまた、性的マイノリティーである自分の姿をひた隠していた一人。身も心も自由に外で表現できない時代に、湧き上がる欲望をスケッチブックにぶつけました。戦時中に出会った逞しい兵士や肉体系労働者、戦後はレザージャケットやレザーパンツのワイルド系男子たちを、繊細に大胆に描き、後に「トム・オブ・フィンランド」の作家名でアメリカの雑誌の表紙を飾ったことで、同じ思いをしていたゲイ男性たちの希望の光となっていきました。
北欧、フィンランドに興味を持っている人なら、一度はトム・オブ・フィンランド(以下トム)のドローイングを目にしたことがあるかもしれません。2014年には記念切手、フィンレイソンの寝具シリーズで登場したデザインは、本国でもかなりの人気だったようです。シンプルでナチュラルで可愛い、そんな北欧デザインとは全く異なる雰囲気ですが、鉛筆一本で丁寧に描かれた作品を見ていると(インパクトのある格好や姿に目を奪われがちですが)、絵の中の男性たちは、笑顔で自信にあふれ、堂々としていてかっこいい。
差別に苦しみ、否定され、傷つきながらも、なぜ描き続けられたのか。現在でも、ゲイカルチャーのアイコンとなっているトムの絵の中の、あの男たちが生まれた背景、彼の絵の魅力、知られざる生涯に迫ります。
監督を務めたのは、ドメ・カルコスキ。子供の頃から、トムの絵を見かける機会はあったものの、1991年に71歳で他界するまでアメリカ人だと思っていたとか。実はフィンランド人の大多数がそう思っていたようで、当時は国の恥だと思う人も多かったようです。
次第に、国の先進性を象徴する英雄となっていたトムを、カルコスキ監督は緻密なリサーチを重ね、歴史的背景もわかりやすく、彼の知られざる内面を繊細に描き出しました。戦場で周りの逞しい兵士の姿に密かに憧れていたシャイな青年時代から、名声を得て堂々と自由と誇りのシンボルとなった中高年時代までを巧みに演じ分けたフィンランドの実力派俳優、ペッカ・ストラングの演技にも注目。今年放送がスタートしたCGアニメ「ムーミン谷のなかまたち」のフィンランド・スウェーデン版でヘムレンさん役の声を演じている俳優さんです。
一番右がジャック役のヤーコブ・オフテブロ
また、“ノルウェーのディカプリオ”こと、ヤーコブ・オフテブロも出演。2016年公開のデンマーク映画『獣は月夜に夢を見る』で、ラース・ミケルセンと共演したヤーコブ・オフテブロは人気急上昇の注目株として記事『【特集】ハリウッドも北欧男子に熱視線!注目の北欧俳優たち』でも紹介しました。本作では、LAのシーンでジャックという重要な役で登場しているので、ぜひ注目してみてください。
個人的に興味深いなと感じた演出は、ファッションと音楽でのこだわり。ヘルシンキで働くツイードのスーツ姿とアメリカでのレザージャケット姿という多国籍感を出すために、オランダの撮影監督とスウェーデンの美術監督を起用したそうです。また、トムの作品の自由や開放感を出すために、抑圧されたフィンランドの暮らしのシーンではフィンランド人の作曲家が、アメリカのシーンではアメリカ在住のドイツ人が作曲を担当しているのだそう。
フィンランドでさえも、没後に徐々に評価されていったアーティスト。ゲイのアーティストによるゲイカルチャーの映画では終わらず、情熱と鉛筆1本で戦い、同じ思いを持つ人々の希望の光となった一人の偉大なフィンランド人の物語。『トム・オブ・フィンランド』は、8月2日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開!
トム・オブ・フィンランド
監督:ドメ・カルコスキ
出演:ペッカ・ストラング、ジェシカ・グラボウスキー、ラウリ・ティルカネン
2017年/フィンランド・スウェーデン・デンマーク・ドイツ/フィンランド語、英語、ドイツ語/原題:Tom of Finland/116分
配給・宣伝:マジックアワー
http://www.magichour.co.jp/tomoffinland/
(C)Helsinki-filmi Oy, 2017
8月2日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開