『ホモサピエンスの涙』のメインビジュアルとなるワンシーン。ケルンの街並みは全て模型。
11月20日(金)より、スウェーデンの巨匠、ロイ・アンダーソン監督の最新作『ホモ・サピエンスの涙』が公開されます。
ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞(グランプリ)を獲得した前作『
さよなら、人類』から、5年ぶりとなるアンダーソン監督の作品。なんと、この最新作でも同映画祭で最優秀監督賞となる銀獅子賞を獲得しました。
CG全盛期に、CGはほぼ使わず、ストックホルム中心部にある巨大スタジオ(Studio24)にセットを組み、模型や手描きの背景画を多用するアナログ手法にこだわった製作で、独自の世界観を創り上げました。映画にナレーションをつけることは、監督にとって初めての経験で、「千夜一夜物語」の語り手、シェヘラザードから着想を得たそうです。
“映像の魔術師”と呼ばれるアンダーソン監督は、今回も監督らしさ満載の映像美で、76分という短い映画ながら、時代も年齢も異なる人々の33のエピソードを描いています。計算し尽された構図、色彩、美術。それぞれワンカットワンシーンで撮影されており、悲しみと喜びを繰り返す人類の姿がぎゅっと詰まっています。(青白い顔をした登場人物たちも健在!
アンダーソン監督の映画は、本物の絵画を見ているようで、立体的で奥行きがあり、まるで舞台を見ているかのような感動を覚えます。次は何が、どんな人が、シーンに登場するのだろうと、ワクワク楽しみになってきます。
チラリと見える四角いドアの向こう側で展開される物語、この前には何があったんだろう、この後この人はどうなるんだろうと、気になって仕方がありません。哀愁や嘆きを時にユーモラスに描き、愛や希望の光をそっと温かく映し出す。どのエピソードにもじんわりと余韻が残ります。
特に気になってしまった登場人物は、「信仰を失ってしまった牧師」。神様なんて本当にいるんだろうかと牧師にも関わらず、神も自分自身も見失ってしまった牧師のエピソードは、映画の中でプチ・シリーズ化されているので、注目してみてください。人は完璧ではないし、うまくいかないことばかり。そんな葛藤をユーモラスに、優しい目線で描いています。
アンダーソン監督は、自身の作品のメインテーマを「人間の脆さ」だと言っています。脆さに対して自覚的にいることができれば、自分の持つものに対して丁寧でいることができ、脆さを見せる何かを創作することは、希望のある行為だと。命、存在、生の美しさを強調したいのだそうです。コントラストとして残酷で悲しい一面を描くことで、その儚く美しい命や希望を際立たせています。
「私たちはある意味で、みんな負け犬。最終的には誰も勝者ではないと認めることが大事。人生はある意味、悲劇である」と言い切るアンダーソン監督。世界が困難に陥っている今だからこそ、強く心に響いてきます。
このシーン、平和感があって、凄く好きです。おそらく、世界中で“あるある”な場面かもしれない?!
ノルウェーで撮影したシーンの外観1つ以外全て、スタジオで撮影されているのだとか!場面カットは載せていないので、ぜひ劇場でチェックしてみてください。(あれが全てスタジオとは……本当に驚きです……)
計算された美しい映像を通して、人々の日常にある悲喜劇を巧みに描いたロイ・アンダーソン監督最新作『ホモ・サピエンスの涙』、お見逃しなく!
【ロイ・アンダーソン監督プロフィール】1943年、スウェーデン・ヨーテボリ生まれ。少年少女の恋のめざめを瑞々しく描いた初の長編映画『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』(70)がベルリン国際映画祭で4つの賞に輝き、世界的な成功をおさめる。長編2作目の『ギリアップ』(75)もカンヌ国際映画祭監督週間に出品。長編3作目『散歩する惑星』(00)ではカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞し、長編4作目『愛おしき隣人』(07)も同映画祭ある視点部門に出品され、スウェーデン・アカデミー賞作品賞含む主要賞を獲得。長編5作目『さよなら、人類』(14)ではヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を受賞。長編6作目『ホモ・サピエンスの涙』(19)でもヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を獲得した。
ホモ・サピエンスの涙出演:マッティン・サーネル、タティアーナ・デローナイ、アンデシュ・ヘルストルム
監督・脚本:ロイ・アンダーソン(『散歩する惑星』『さよなら、人類』)
撮影:ゲルゲイ・パロス
2019年/スウェーデン=ドイツ=ノルウェー/カラー/76分/ビスタ/英題:ABOUT ENDLESSNESS/原題:OM DET OÄNDLIGA
配給:ビターズ・エンド
http://www.bitters.co.jp/homosapi© Studio 24
2020年11月20日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!▼関連記事
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