フィンランドデザイン界で現在活躍中のゲストスピーカーが来日!ヴィトラ&アルテックの新しいショールームで開催されたトークイベントには大勢の“本気でフィンランドデザインを学びたい!”皆様が集結。ヴィトラ&アルテックの好きなチェアやスツールに座ってのトークショーは、フィンランドデザインに影響を与えた巨匠たちの活動を追いつつ、彼らの知られざるつながりや、現在のフィンランドデザインに至るまで、非常に充実したトークが披露されました。
ゲストスピーカーは、フィンランドデザインを代表するデザイナーで、イッタラのデザインディレクターを務めるハッリ・コスキネン氏をはじめ、アルテックのデザインディレクターのヴィッレ・コッコネン氏、今年7月にアルテックの社長に就任したばかりのマリアンネ・ゴーブル氏3名。さらには、フィンランドには取材で何度も訪れているエル・デコ編集長の木田隆子氏が加わり、いっそう濃くて楽しいトークに。北欧区もどっぷりと聞き入ってしまったトークイベントをまとめてお伝えします!
左からヴィッレさん、ハッリさん、マリアンネさん。ハッリさん、真剣に通訳の方に耳を傾けています!
トップバッターは、アルテックのデザインディレクター、ヴィッレ・コッコネンさん
「フィンランドデザインに影響を与えた巨匠たち」について
アルヴァ・アアルト、イルマリ・タピオヴァーラ、ユーロ・クッカプロ、エーロ・アールニオという、フィンランドを代表する4名の巨匠をあげたヴィッレさん。それぞれ個性があるのはもちろんなのですが、ベースにあるのは、「旅好き」ということ。アアルトはよくスウェーデンに行き、タピオヴァーラはロンドンやパリなど、アールニオにいたってもそう。
他のデザイナーたちは、建築家だったり彫刻家だったりする人が多いなか、タピオヴァーラは家具デザイナーでした。これは当時、大変珍しいことだったそうです。
クッカプロとアールニオはタピオヴァーラの生徒だったそうです。クッカプロはアアルトの影響も受けていたとか。彫刻家でもあったクッカプロは、ABS樹脂のイスなどを手がけていましたが、オイルショックを期に、プラスチックが手に入りづらくなり、ベニヤ素材に移行。人体にぴったりとフィットするエルゴノミクス(人間工学)を中心に研究を始めていきます。
アールニオは、タピオヴァーラの影響が強いそうです。ユニークなエピソードに、卵の研究があるとか。なんでも、木で本物とそっくりの卵の形をした制作をしたいがために、ヘルシンキ中の卵をかき集め、その中で理想的な美しい卵の形を見つけ、制作したそうです。籐製のチェアや有名なボールチェア、バブルチェアにも見られるように、球形に魅了されたアールニオは、完璧な形を追い求めていくデザイナーです。
次は、日本でもファンの多い、ハッリ・コスキネンさん
これまでのハッリさんの作品や活動について
まずはハッリさんがデザインディレクターを務めるフィンランドの老舗ブランド「イッタラ」について。カイ・フランクの「デザインに必要なのは“カラー”だけでいい」という言葉は、イッタラのデザイン哲学を象徴するものだそうです。考えつくされた、末永く続くデザイン。そしてそれが、どれだけ世界に通用するか。毎日使って機能的であるか。飽きの来ないデザインであるかどうか。そういったことを常に追求しています。フィンランドデザイン全体に通じる内容ですね。
来年はタピオ・ヴィルッカラ生誕100周年記念ということで、アルテックとイッタラで盛大なイベントを企画予定だとか!
さらに、個人のスタジオについてもお話してくださいました。2000年に設立、最初の仕事はイッセイ・ミヤケの2つの時計のデザイン。同年、日本で初めて個展を開催しています。独立後初の仕事が日本企業だったハッリさん。日本との縁の深さは、ここから来ているようです。
ほかには、イッタラ・アラビアはもちろん、広島を拠点とするマルニ木工の家具なども。ハッリさんを一躍有名にしたブロックランプを手がけたのは、まだ学生だったとか。
エル・デコ編集長の木田さんによると、取材のためにアポイントを取ると、ハッリさんとオイバ・トイッカさんがよく一緒にいらっしゃるそうです。「ハッリさんにとって、オイバ・トイッカ氏という存在は?」というアーティスト同士の交流関係について質問をしてくださいました。
「1996年、まだ学生の頃に初めてオイバに出逢い、彼の指名によってイッタラの仕事をすることになりました」とハッリさん。当時、オイバさんはとても積極的にイッタラで作品を手がけており、カイ・フランクと同じ作業場を使っていたそうです。すでに20年来の仲で、家もご近所だとか。オイバさんはとても遊び心のある人で、いつも楽しい、面白いものを生み出そうとしている人。
当時のあるエピソードを話してくれたハッリさん。オイバさんに、「私は三角とコーンの形と四角を取るから、あと残ったもの(形)を使ってもいいよ」と言われたことがあり、ほとんど残った形がないじゃないか?!と言いたくなるようなチャーミングなジョークで、からかわれることもあったとか。今でもずっと続いているとても素敵な交友関係で、ほほえましいです。
最後に、7月にアルテック社長に就任したばかりのマリアンネ・ゴーブルさん
「フィンランド歴4ヶ月だけど」と冗談を交えながら笑顔が印象的
アルヴァ・アアルトを含む、4人の理想家により設立されたアルテック。アルテックの手描きマニュフェストをプロジェクターで披露してくださいました。スウェーデン語で書かれています。世界がスチールに注目していた頃、アアルトはもっぱらバーチ材に興味があり、ムク材を曲げる技法をあみだしました。
来年2015年にはチェア「Rival(ライバル)」が発売予定。アアルトやタピオヴァーラなどの巨匠の作品に引けをとらないチェア、というのがネーミングの由来だそうです。
「フィンランドデザインの未来は?」という木田さんからの質問に、マリアンネさんは、「フィンランドデザインは、デザインの中にリスペクトがあり、長く使われるよう計算しつくされています。存在感、寛容性があり、周りのものを否定せず、スッと暮らしになじむところがいいですね」と語り、ヴィッレさんは、「会社や若手にとってチャレンジの時代はいつだって来るし、(ゲームの)アングリーバードといったITのほうがフィンランドデザインと言われる日が来るかもしれないけど(笑)、大丈夫でしょう!!」と、自信に満ちた表情で締めてくれました。
アルテック設立当初、こういった意気込みのもと、スタートしたそうです。
『フィンランドを世界に広め、世界をフィンランドに招きいれよう』
まさに今、そうなっていると思いませんか?
ハッリさん、おめでとうございます!
この日、フィンランドの権威ある「カイ・フランク・デザイン賞」をハッリ・コスキネンさんが受賞したという発表がありました。「カイ・フランク・デザイン賞」は、1992年より設立された賞で、第1回目はオイバ・トイッカ氏が受賞。過去受賞者には、石本藤雄氏やエーロ・アールニオ氏なども名前を連ねています。
受賞を記念する展示会「カイ・フランク・デザイン賞」は、フィンランドのデザイン・ミュージアムにて11月14日より開催予定。
展示会「カイ・フランク・デザイン賞」(The Kaj Franck Design Prize)
会期:2014年11月14日(金)~2015年1月11日(日)
会場:デザイン・ミュージアム
http://www.designmuseum.fi/en/exhibitions/kaj-franck-eng/
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【フィンランドトークイベント「Finland Design Talk by Artek & Design Forum Finland」】
日時:2014年11月3日(月・祝)
会場:Vitra & Artekオフィス・ショールーム
ゲストスピーカー:ハッリ・コスキネン、ヴィッレ・コッコネン、マリアンネ・ゴーブル
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Vitra&Artekの新オフィス・ショールームを取材したこちらの記事もご参考に!
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