2019/05/20

【特集】ルート・ブリュックの長女が語る自分のこと、家族のこと マーリア・ヴィルカラ インタビュー

ブリュックの長女マーリア・ヴィルカラさん来日!
会場で披露された特別展示や、オリジナル作品、
ヴィルカラ家での子供の頃のエピソードも披露。




6月16日まで、東京ステーションギャラリーにて開催中の注目の展覧会「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」。同展は、これまで日本であまり深く紹介されることがなかった、フィンランドを代表するアーティスト、ルート・ブリュックによる作品約200点が紹介されており、今年から来年2020年にかけて日本国内での巡回が予定されています。

東京ステーションギャラリーの会場に入ると、まず目を引くのが、デザイナーのタピオ・ヴィルカラと、本展の主役ルート・ブリュックの長女で、現代アーティストのマーリア・ヴィルカラさんによるインスタレーション「心のモザイク――ルート・ブリュック、旅のかけら」の特別展示。

これは2016年に、エスポー近代美術館にて、ルート・ブリュック生誕100周年記念展で特別展示した「心のモザイク」の日本バージョン。ブリュックが残した膨大なタイルのピースを並べて、ブリュックが手がけた作風の変遷をたどっていくというもの。言葉ではなく、ブリュックのこれまでの作品の全体図が可視化された作品になっています。

エスポー近代美術館バージョンでは、約12メートルにおよぶ作品だったというインスタレーション。日本バージョンでは、タイルを並べる台座に、マーリアさんは、日本で古くから収納として用いられてきた茶箱をチョイス。タイルは全て、日本の展示のために新たに組みました。

今回、マーリア・ヴィルカラさんが来日されたということでインタビューしてきました。柔らかな口調と笑顔の中にも、自身の考えややり方に一本筋が入ったプロフェッショナルな女性という印象のマーリアさん。今回の特別展示や、アーティストとしての彼女自身の作品について、また、ヴィルカラ家のエピソードなども聞いてみました。


©Hayato Wakabayashi
マーリア・ヴィルカラさんのインスタレーション「心のモザイク――ルート・ブリュック、旅のかけら」



日本バージョンのインスタレーションは、
作家としてのルートに対する私からの「詩」。


――インスタレーション「心のモザイク」には圧倒されました。あれは日本バージョンとのことですが、日本で組みながら何を思いましたか?

マーリアさん:エスポー近代美術館での作品は約12メートルもあり、日本バージョンとは全く異なるものです。今回のものは特別に日本向けに組みなおしましたし、何かローカルなもの、日本のことを思って、美術館で用意された什器ではなく、土台に茶箱を選びました。エスポー近代美術館のものが、ルートの作家としてのキャリアを自伝的に表したものだとすれば、今回の日本での作品は、ルートに対する私からの詩のようなもの。展開の仕方は同じだけれど、表し方がコンパクトになったという形です。

――言葉ではなくビジュアルで、ルートが辿ってきたストーリーを見せていますよね。まさに全てこの「心のモザイク」が表しているのを感じました。

マーリアさん:展示に入る前のプロローグ(まえがき)のようなものですね。

――越後妻有アートトリエンナーレをはじめ、日本でも積極的に作品を出品していらっしゃいますよね。マーリアさんの作風・作品について、また、特徴などを教えてください。作品づくりで意識していることは?

マーリアさん:私の作風としては、“場所”と“瞬間”です。何がその場所で見えているのか、何が見たくないのか。何を知っていて、何を知りたくないのか。そこからスタートして、場所や状態、ものごとの状況を考えていきます。作品はインスタレーションという形になるけれど、扱う素材はどれも全く異なります。私の作品は、その場所で成立するもの。場所とその瞬間に対してのリアクションなのです。私の作品はそれぞれとても違うので……説明するとなると、難しいのよね(笑)


<マーリアさんの作品一部紹介>

■水の入ったグラスを乗せたブランコが揺れる姿につい見入ってしまうインスタレーション「DEPENDING ON – PROPORTIO」。「これはタピオ(父)のグラスを使った作品よ」とマーリアさん。

■モノクロームな映像で、まるで映画のワンシーンのような空飛ぶ馬車のインスタレーション「WAIT TO BE FETCHED」。ミュージアムから依頼された作品で、「死」がテーマになっています。馬車は本物で、なんと美術館のコレクション。美術館側から「触らないでくださいね」と言われたそうですが……。
 


――多岐にわたるマーリアさんの作品ですが、アーティストとして、ご両親の影響を受けていると思いますか?

マーリアさん:もちろん家族ですから、影響は受けています。ですが、それは直接的ではないですね。親なのである程度は当たり前のように、何かしら影響はありますよね。作家として、というよりも、とても仲が良く個性のある両親だったので、そういったところでの影響はあると思います。

――普段はどんなご両親でしたか?差し支えなければ、子供の頃の思い出やエピソードがあれば、お願いします。

マーリアさん:私たち家族はたくさん旅行をしました。タピオがベニスで仕事をするときには、みんなでベニスへ行き、長期滞在しました。家族みんなで居ることが重要だったんです。ベニスのあとはラップランドへ移動しました。距離もある上に、気候もかなり異なる環境。でも、私たち子供にとっては、とてもスムーズでナチュラルなことでした。両親はお互いを尊敬しあっていましたし、私たち子供のことも信頼してくれていました。

アーティスト同士のカップルだと、夫婦の力関係はどうしても男性が強くて、女性のほうは我慢したり、諦めることが多かったりしますが、私の両親の場合は、夫婦の力関係が完全にイコールだったので、それが普通だと思っていました。当時は自分の両親が普通だと思っていたのに、大人になって周りを見てみると、それが普通ではないと後で気づいたんです。両親は本当にお互いのキャリアを尊重していました。それはとても大切で、美しいことだと思います。

――今後、マーリアさんが挑戦してみたいことはありますか?

マーリアさん:新しい仕事は常にチャレンジ。何が起こるかわからないから……人生のようですね。夢(ドリーム)は持たないし、見ません。計画して目標を立てて、それに向かっていくというよりも、「やったことが、やりたかったこと」なんです。ずっとそうやって仕事をしてきましたから。



母ルートは、陶芸という言語通じて、さまざまな作品を残していますが、娘マーリアさんは、母の表現方法とは異なり、感覚や体験を通じて、人の記憶に残る作品を手がけています。長年のキャリアを持ちながらも、作品を手がける時は「いつも恐怖とは隣り合わせ」と言うマーリアさん。「いつも『この作品が最後になるかもしれない』と思いながら手がけている」とのこと。魂を感じます。また、常に物事に対して柔軟で、無限の可能性や広がりを二人の作品に感じるのは、やはり親子だなと思わざるを得ません。



マーリア・ヴィルカラ/Maaria Wirkkala

1954年ヘルシンキ生まれ。ルート・ブリュックとタピオ・ヴィルカラの長女。現代アーティスト。陶芸家・写真家として作家活動を始め、1980年代から空間インスタレーションやパフォーマンスを手がける。自然と人間の関係性や共存の歴史、人々の暮らしの中で息づいてきた記憶や伝説をテーマに、詩的な情緒を持つ作品を生み出している。ベネチア・ビエンナーレをはじめとする世界各地の国際美術展に参加。日本でも越後妻有アートトリエンナーレ、横浜トリエンナーレ、瀬戸内国際芸術祭など数々のアートフェスティバルに出品。「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」に関連しては、日本語で初となるルート・ブリュックの書籍『はじめまして、ルート・ブリュック』での寄稿や、展覧会にはヴィルカラが個人的に所有する作品も数点展示される。http://www.maariawirkkala.com/



ルート・ブリュック 蝶の軌跡

会期:2019年4月27日(土)~6月16日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/
開館時間:10時~18時(金曜は20時まで開館。入館は閉館の30分前まで)
休館日:6月10日をのぞく月曜日
観覧料:一般1,100円、高校・大学生900円、中学生以下無料
※20名以上の団体は、一般800円、高校・大学生600円
※障がい者手帳等持参の方は100円引き(介添者1名は無料)
※展示室は一部撮影可能。
公式ウェブサイト:http://rutbryk.jp

<巡回先情報>
2019年~2020年にかけて、伊丹市立美術館、伊丹市立工芸センター、岐阜県現代陶芸美術館ほか全国数会場にて開催予定。

▼東京ステーションギャラリー会場レポート!見どころをご紹介。
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