モダニズムを代表する画家の一人として、世界的に注目を浴びるフィンランドの国民的画家、ヘレン・シャルフベック(1862-1946)が、今年、生誕160年を迎えます。彼女の作品は、日本でも2015年から2016年にかけて大規模な個展が開催され、2019年にはフィンランドの女性芸術家7人にスポットを当てた「モダン・ウーマン展」で作品が紹介されました。
ヘレンの作品では自画像が有名ですが、病気から快復した少女をみずみずしく描いた代表作《快復期》は見覚えのある人が多いかもしれません。少女の瞳の美しさに心奪われる作品です。
そんな彼女の画業と人生を決定づけたとされる、1915年から1923年の53歳から61歳までの中年期時代を描いた『魂のまなざし』が劇場公開されます。
どんなときも真実を求め続けた、
人生最後の愛と友情の物語。
舞台となっている時代背景は、フィンランド独立(1917年)直前の時代から内戦を経て、1923年の母親が亡くなるまで。ヘレンは幼少時から才能を見込まれ、奨学金を得て、18歳の時にパリへ渡り、20代の大半をパリで過ごしています。
祖国に戻ると、美術界を支配する保守的で権威主義的な男性社会の中で、真実を追求する自由な精神は身を潜めてしまいます。本作は、絵を描き続けていたものの、郊外に母親とひっそりと住んでいたところに、ヘレンの作品をいくつか持っている“ファン”だという野心的な画商のヨースタ・ステンマンと森林保護官で画家・作家のエイナル・ロイターの2人が現れるところから始まります。
ロシア帝国の支配下にあったフィンランドに生まれ、祖国の独立と内戦を経験。抑圧的な母親や男性社会にも臆さず、ヘレンは、内なる情熱と芯の強さ、凛とした姿を見せます。19歳年下のエイナルへの想いに気づくも、ひたすら内に秘め、抑え、その感情を静かに作品に落とし込んでゆくヘレンが印象的。母のことは、ヘレンの悩みの種でしたが、真っすぐな愛も、屈折した愛もみんな自分への貴重な励みになっていました。
日本でも公開された作品に多数出演!
フィンランド俳優の豪華共演にも注目。
また、キャストにも注目です!
画家として、女性として、また、一人の人間として自律的に生きるヘレンを演じるのは、マリメッコ創業者の人生を描いた『ファブリックの女王』にも出演していたフィンランドの女優ラウラ・ビルン。
ヘレンの人生に影響を与えたエイナルを演じたのは、『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』に出演、『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』で主人公を演じたヨハンネス・ホロパイネン。また、同じく『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』で主演を務めたベテラン俳優のエーロ・アホはヘレンの兄役で登場。
さらに、昨年公開されたトーベ・ヤンソンの半生を描いた『TOVE/トーベ』で、トーベと心を通わせたヴィヴィカ・バンドラー役を演じたクリスタ・コソネンが、ヘレンの親友役で出演しているという、フィンランド俳優の豪華共演となっています。
監督は、ビヨンセやセリーヌ・ディオン、ケリー・クラークソンなど、数々のミュージック・ビデオを手掛けてきたアンティ・ヨキネン。監督2作目『Purge』(2012)は、本作と同じくラウラ・ビルンを主演に起用し、第85回アカデミー賞外国語映画賞フィンランド代表に選ばれています。
ヨキネン監督はずっと、ヘレンの崇拝者で、彼女の映画を作りたかったといいます。
なんとヘレンはこれまで、“頭もあまり良くなく、虚弱で、画家として見捨てられ苦しめられた”といったふうに語られてきたのだとか。しかし、調査を重ねてみると、全く違っていたのだそう。見つけたのは、強くて真っすぐ、正直者でユーモアのある芸術家の姿だったそうです。
ヘレンが遺した多くの手紙には重要な内容が記してあるのと同時に、言葉の使い方が素晴らしいと監督。映画は、歴史的に正確な、実人生から無理なく想像できる範囲で描こうと思ったそうです。
ヘレンのキャンバスに向かう姿、椅子にただ座っている姿など、どのシーンも、まるで絵画作品のよう。美しい構図、映像美もぜひ注目してみてください。
『魂のまなざし』は、7月15日(金)より、Bunkamura ル・シネマ他にて順次公開予定!
どこを切り取っても絵画作品のような美しい映像にも注目です。
【ヘレン・シャルフベック(1862-1946)】
フィンランドで最も敬愛されるモダニズム画家。病気から快復した少女をみずみずしく描いた《快復期》や、死に至る晩年まで自らを見つめ描き続けた自画像の数々に代表される彼女の作品は、多様なスタイルを取り入れつつも、寄り添うような親密さとメランコリー、静謐な美しさと力強さをどれも一貫してたたえている。その時代を超越した驚くべき現代性から、近年では世界的再評価が進み、2015年には日本で初の回顧展「ヘレン・シャルフベック 魂のまなざし」が、2019年にはイギリスの国立ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで展覧会が開かれた。
<おまけ>
ムーミンの原作者で画家のトーベ・ヤンソンは1914年生まれなので、本作はトーベがちょうど生まれた頃の話。また、4月に公開された『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』で紹介されているスウェーデンの画家、ヒルマ・アフ・クリントとヘレンは、なんと同い年。どちらも男性社会の中で生きた画家ですが、彼女たちに接点があったかどうかは不明。もし接点があったとしたら、どんな話をしたのだろうかと想像してしまいます。
魂のまなざし
監督:アンティ・ヨキネン
出演:ラウラ・ビルン、ヨハンネス・ホロパイネン、クリスタ・コソネン、エーロ・アホ、ピルッコ・サイシオ、ヤルッコ・ラフティ
2020年/フィンランド・エストニア/122分/原題:HELENE/字幕:林かんな
配給:オンリー・ハーツ
後援:フィンランド大使館
応援:求龍堂
http://helene.onlyhearts.co.jp/
©Finland Cinematic
2022年7月15日(金)より、Bunkamura ル・シネマ他にて順次公開
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ヘレンの作品では自画像が有名ですが、病気から快復した少女をみずみずしく描いた代表作《快復期》は見覚えのある人が多いかもしれません。少女の瞳の美しさに心奪われる作品です。
そんな彼女の画業と人生を決定づけたとされる、1915年から1923年の53歳から61歳までの中年期時代を描いた『魂のまなざし』が劇場公開されます。
どんなときも真実を求め続けた、
人生最後の愛と友情の物語。
舞台となっている時代背景は、フィンランド独立(1917年)直前の時代から内戦を経て、1923年の母親が亡くなるまで。ヘレンは幼少時から才能を見込まれ、奨学金を得て、18歳の時にパリへ渡り、20代の大半をパリで過ごしています。
祖国に戻ると、美術界を支配する保守的で権威主義的な男性社会の中で、真実を追求する自由な精神は身を潜めてしまいます。本作は、絵を描き続けていたものの、郊外に母親とひっそりと住んでいたところに、ヘレンの作品をいくつか持っている“ファン”だという野心的な画商のヨースタ・ステンマンと森林保護官で画家・作家のエイナル・ロイターの2人が現れるところから始まります。
ロシア帝国の支配下にあったフィンランドに生まれ、祖国の独立と内戦を経験。抑圧的な母親や男性社会にも臆さず、ヘレンは、内なる情熱と芯の強さ、凛とした姿を見せます。19歳年下のエイナルへの想いに気づくも、ひたすら内に秘め、抑え、その感情を静かに作品に落とし込んでゆくヘレンが印象的。母のことは、ヘレンの悩みの種でしたが、真っすぐな愛も、屈折した愛もみんな自分への貴重な励みになっていました。
日本でも公開された作品に多数出演!
フィンランド俳優の豪華共演にも注目。
また、キャストにも注目です!
画家として、女性として、また、一人の人間として自律的に生きるヘレンを演じるのは、マリメッコ創業者の人生を描いた『ファブリックの女王』にも出演していたフィンランドの女優ラウラ・ビルン。
ヘレンの人生に影響を与えたエイナルを演じたのは、『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』に出演、『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』で主人公を演じたヨハンネス・ホロパイネン。また、同じく『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』で主演を務めたベテラン俳優のエーロ・アホはヘレンの兄役で登場。
さらに、昨年公開されたトーベ・ヤンソンの半生を描いた『TOVE/トーベ』で、トーベと心を通わせたヴィヴィカ・バンドラー役を演じたクリスタ・コソネンが、ヘレンの親友役で出演しているという、フィンランド俳優の豪華共演となっています。
監督は、ビヨンセやセリーヌ・ディオン、ケリー・クラークソンなど、数々のミュージック・ビデオを手掛けてきたアンティ・ヨキネン。監督2作目『Purge』(2012)は、本作と同じくラウラ・ビルンを主演に起用し、第85回アカデミー賞外国語映画賞フィンランド代表に選ばれています。
ヨキネン監督はずっと、ヘレンの崇拝者で、彼女の映画を作りたかったといいます。
なんとヘレンはこれまで、“頭もあまり良くなく、虚弱で、画家として見捨てられ苦しめられた”といったふうに語られてきたのだとか。しかし、調査を重ねてみると、全く違っていたのだそう。見つけたのは、強くて真っすぐ、正直者でユーモアのある芸術家の姿だったそうです。
ヘレンが遺した多くの手紙には重要な内容が記してあるのと同時に、言葉の使い方が素晴らしいと監督。映画は、歴史的に正確な、実人生から無理なく想像できる範囲で描こうと思ったそうです。
ヘレンのキャンバスに向かう姿、椅子にただ座っている姿など、どのシーンも、まるで絵画作品のよう。美しい構図、映像美もぜひ注目してみてください。
『魂のまなざし』は、7月15日(金)より、Bunkamura ル・シネマ他にて順次公開予定!
どこを切り取っても絵画作品のような美しい映像にも注目です。
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フィンランドで最も敬愛されるモダニズム画家。病気から快復した少女をみずみずしく描いた《快復期》や、死に至る晩年まで自らを見つめ描き続けた自画像の数々に代表される彼女の作品は、多様なスタイルを取り入れつつも、寄り添うような親密さとメランコリー、静謐な美しさと力強さをどれも一貫してたたえている。その時代を超越した驚くべき現代性から、近年では世界的再評価が進み、2015年には日本で初の回顧展「ヘレン・シャルフベック 魂のまなざし」が、2019年にはイギリスの国立ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで展覧会が開かれた。
<おまけ>
ムーミンの原作者で画家のトーベ・ヤンソンは1914年生まれなので、本作はトーベがちょうど生まれた頃の話。また、4月に公開された『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』で紹介されているスウェーデンの画家、ヒルマ・アフ・クリントとヘレンは、なんと同い年。どちらも男性社会の中で生きた画家ですが、彼女たちに接点があったかどうかは不明。もし接点があったとしたら、どんな話をしたのだろうかと想像してしまいます。
魂のまなざし
監督:アンティ・ヨキネン
出演:ラウラ・ビルン、ヨハンネス・ホロパイネン、クリスタ・コソネン、エーロ・アホ、ピルッコ・サイシオ、ヤルッコ・ラフティ
2020年/フィンランド・エストニア/122分/原題:HELENE/字幕:林かんな
配給:オンリー・ハーツ
後援:フィンランド大使館
応援:求龍堂
http://helene.onlyhearts.co.jp/
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2022年7月15日(金)より、Bunkamura ル・シネマ他にて順次公開
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