昨今、その国を代表する歴史上人物、著名ミュージシャンやアーティストの伝記映画やドキュメンタリー映画が多く公開されています。
例えば北欧では、記憶に新しいものが、ムーミンの原作者トーベ・ヤンソンの半生を描いた映画『TOVE/トーベ』、マリメッコ創業者のアルミ・ラティアを描いた映画『ファブリックの女王』。
ノルウェーでは、実在した女優ソニア・ヴィーゲットの半生を描いた自伝映画『ソニア ナチスの女スパイ』、ノルウェーの礎を築いたホーコン国王の映画『ヒトラーに屈しなかった国王』。そして、今年5月に公開予定のシンセポップグループa-haを描いた『a-ha THE MOVIE』(後日詳しくお伝えします!)。
スウェーデンでは、ジャズシンガー、モニカ・ゼタールンドの自伝的映画『ストックホルムでワルツを』、児童文学作家のアストリッド・リンドグレーンの若き日を描いた映画『リンドグレーン』など、彼らの知られざるエピソードや素顔が映し出された作品を目にします。
来月4月に公開される、こちらの『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』もまた、ある人物を追ったドキュメンタリー。スウェーデンの女性画家、ヒルマ・アフ・クリント(1862-1944)をフィーチャーした映画です。
ヒルマ?誰だろう?
なんと彼女は、抽象絵画の創始者として世界的に知られるワシリー・カンディンスキーやピート・モンドリアンより早く、独自の手法で抽象絵画を描いていた人物です。
抽象的絵画の先駆者でありながら、なんと最近まで、その存在を知られていなかった画家で、近年認知されて以来、世界的に評価を急速に高めている美術界注目の人物なんです。
2019年には、世界初となるヒルマ・アフ・クリントの回顧展が、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で開催されました。回顧展は、約60万人という同館史上最高の動員を記録。昨秋、彼女の生涯を描いた巨匠ラッセ・ハルストレムが最新作『Hilma』(昨秋、リトアニアで撮影を完了)で、欧米で大きな注目を集めています。
美術史をひっくり返す存在だった!?
なぜ、存在を知られていなかったのか。
ヒルマ・アフ・クリントは1862年、スウェーデンに生まれました。王立美術院で学び、写実的な絵、情物画といった伝統的な絵画で成功を収めた画家でしたが、妹の死などを経て、より宇宙やスピリチュアルを意識した神秘主義に傾倒し、独創的な絵画を手掛けるようになります。
その独創性は、同じ思想を持つ4人の女性芸術家と結成した「5人」の活動や、ルドルフ・シュタイナーとの出会いで輝きを増していきます。しかし、同時代の画家たちが次々と新たな芸術作品を発表する中で、彼女自身はその革新的な作品を世に出すことなく、自身の死後20年間は作品を公表しないよう言い残し、1944年、82歳でこの世を去りました。
突如世界に披露され、驚異的な先進性や創造性で世界中の人々を虜にしたヒルマの作品は、なぜ20年を経ても世に出なかったのでしょうか。どんな思考を持った人物だったのか。彼女が見つめていた世界とは。
本作は、キュレーター、美術史家、科学史家、遺族などの証言とともに、彼女が残した絵と言葉から、謎に包まれたその生涯、美術史の裏側にも迫る興味深い内容となっています。
神秘的な曲線や、強いこだわりを感じるモダンな配色。特にカラースキームはヒルマにとって非常に重要だったそう。青、黄、ピンクを愛し、成長や生命を表現しました。
ヒルマは、フィンランドの女性画家、ヘレン・シャルフベック(日本では2015~2016年に回顧展開催)と1862年生まれの同い年。二人の直接的な出会いはなかったかもしれませんが、20世紀初頭に、実力のある女性芸術家が存在したというのは明らか。
長い沈黙を経て、ヒルマの存在は、自身の革新的な作品を現代に生きる我々に披露してくれただけでなく、美術界に潜む深い闇に言及しているようにも感じます。
ちなみに、カンディンスキーとは面識がなかったようですが、“抽象画を発明した女性画家”として、もし当時、カンディンスキーと出会っていたら?そんな妄想も浮かんできます。
『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』は、4月9日(土)より全国順次公開。お見逃しなく!
見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界
監督:ハリナ・ディルシュカ
出演:イーリス・ミュラー=ヴェスターマン、ユリア・フォス、ジョシュア・マケルヘニー 2019/ドイツ/94分/英語、ドイツ語、スウェーデン語/英題:Beyond the Visible – Hilma af Klint
配給:トレノバ
後援:スウェーデン大使館
公式サイト:https://trenova.jp/hilma/
予告編:https://youtu.be/4mLBk37yZx4
2022年4月9日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開
▼公開日程(予定)
東京:ユーロスペース 4/9(土)~/神奈川:横浜シネマリン4/23(土)~/京都:京都シネマ4/29(金)~/大阪:シネ・リーブル梅田4/29(金)~/愛知:名古屋シネマテーク4/30(土)~ ほか全国順次公開