2014年は、ムーミンの原作者トーベ・ヤンソンが生誕100周年を迎えたことで、フィンランドをはじめ、日本でも巡回展が開催され、多くのグッズが誕生し、販売されました。今年に入ってからも、映画が公開され、雑誌ではムーミン特集が組まれるなど、あらゆるところでムーミンやトーベ・ヤンソンに触れる機会がありました。
引き続き、今年はムーミンが出版されて70周年という記念の年。ムーミン本に長年携わってきた講談社のムーミン担当編集者である横川浩子さんと、ムーミン愛好家でライターの萩原まみさんによる、あらゆる角度からムーミンやトーベのことを知ることができる、深く、濃いトークイベントが、ジュンク堂書店池袋本店にて行われました。
トーベと親交があり、アトリエにも訪れたことがある横川さん。2年前には、トーベが晩年過ごした孤島、クルーヴハルに上陸しました。トーベにまつわる貴重な思い出やエピソードを紹介。また、萩原さんは、昭和から平成のムーミン、フィンランドのムーミンのお宝グッズ、ファイルにまとまったムーミン関連資料の数々を披露してくださいました。驚きのレアなトークが満載です!
評伝『トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン』(※1)を手に、「この評伝の編集に携わって、あらためてわかったこと、発見がいっぱいでした」と話す横川さん。右は萩原さん。
■横川さんが知る、トーベ・ヤンソンの素顔
来日したトーベの印象
平成版アニメ『楽しいムーミン一家』がスタートするときに来日したトーベ。その際、日本の読者の皆さんへと色紙を描いてもらったそうです。ミイの絵を描いているなと思っていたら、「やっぱりこれはちょっと・・・」と言って、もう一回描きなおしました。最初に描いたものは、「絶対に見せられない」と裏返しのまま誰にも見せなかったとか。日本に残す一枚として、納得いくものでないといけないというトーベの強い責任感に感動したといいます。
アトリエを訪れたら・・・
前日、ホテルにトーベから「気をつけていらっしゃいね」とのメッセージが届いていた上に、当日ドアを開けたとたん、ギュッと抱きしめてくれたそうです。「今は仕事よりも一緒にパーティーをしましょう」と出迎えてくれたトーベ。「パーティー好きで、人好きな人だった」と振り返る横川さん。一人で撮影、通訳なしでアトリエを訪れ、弟さんの家にも行き、欲しいものリクエストしなければならないという緊迫した状況の中、トーベのあたたかいおもてなしに、心がほぐれていくような感覚になったそうです。
晩年を過ごしたクルーヴハルへ
晩年、パートナーのトゥーリッキと過ごした孤島クルーヴハル(※2)。そこには今でも二人が建てた小さな小屋が残っており、実際に訪れた横川さん。5月から9月いっぱい頃まで、申請したら訪れることができ、昨年は日本人観光客も大変多かったとか。誰でも使えるように、「次にくる人のために、カギをかけたらドアの横にさげておいてください」といった注意事項が書かれているそうです。東西南北にあけたどの窓からも海が見えるのが自慢だったというトーベ。いつも明るく、パーティーやダンスを愛し、人を愛したといいます。
■ムーミンの気になる話、裏エピソード
ムーミン谷はトーベのしあわせな幼少時代の記憶
牧師の娘だったトーベの母の実家はスウェーデン。自然あふれる、のどかな場所に住んでいました。夏になると、ヘルシンキからストックホルムへ行くトーベ一家。母の親戚やいとこたちとの幸せな思い出と、フィンランドの美しい森や海をかけ合わせたのが「ムーミン谷」といわれているそうです。
必ずといっていいほど「コーヒー」が登場
さすがコーヒー消費大国?!『小さなトロールと大きな洪水』以外のシリーズ8話には全てコーヒーが登場しています。何かのきっかけ、はじまりにはコーヒーが!たとえば、『ムーミン谷の彗星』では、スナフキンとの出会いのとき。また『ムーミン谷の夏まつり』では、洪水のときでもコーヒー。『ムーミンパパ海へ行く』でも、燈台守とのやり取りの中で、コーヒーが重要な役割を担っています。コーヒーには、自然と人と人をつなげる効能があるようです。
より美しく、効果的に見せるために、考え抜かれた挿絵
挿絵を描くとき、トーベははじめ、墨絵のような形で濃淡を出していましたが、紙質によってはつぶれてしまい、絵をきれいに出せないため、線画で濃淡を表す絵にしていきました。また、どんな画面構成にすれば、より効果的に見せることができるのか、ということも熱心に勉強していたそうです。
■最近気になるキャラクター、フローレン/スノークのおじょうさん
萩原さんが最近気になるキャラとしてあげたのがフローレン。
「TVアニメではかなり女の子っぽいキャラだけど、コミックや劇場版ムーミン(※3)を見ても、とっても弾けていて。自分の好きなことを、周りの目を気にせず楽しんでいますよね。素敵だなぁと思います」(萩原さん)
「『ムーミン谷の彗星』の中でのスノークのおじょうさんが、なんでも話し合ってコトを進行しようとする議論好きの兄スノークをよそに、そんなことより、とっとと逃げればいいのよ!って、さらりと言うシーンがあるんですけど、とっても現代的な女の子という印象ですよね」(横川さん)
『ムーミン谷の彗星』は3回書き直されていて、その過程で、前述のスノークのおじょうさんのエピソードが消えてしまったそうですが、コミックの中では、非常に気持ちのいいキャラクターとして描かれています。
■ムーミンお宝グッズ&ムーミンマグ裏エピソード
日本とフィンランドのグッズを比較から、昭和の雰囲気たっぷりなレアアイテム、高値のついたマグまで、萩原さんが集めたムーミングッズがずらり。「ヘムレンさんだったら、ちゃんと書き留めておくかもしれないけれど、スニフみたいになんでもかんでも集めているから、どこで手に入れたかわからない(笑)」と萩原さん。フィンランドのテレビ局も取材に訪れるほどのコレクション。その一部を披露してくれました。
右上に見えるのは、昭和ムーミンの「かるた」。ピンクの前髪にグリーンの“ノンノン”が。お菓子の入ったムーミンハウスの缶は、淡い色が日本。濃い色がフィンランドのものだそう。ケース入りのムーミンマグは、アラビアの『夢見るムーミンマグ(Moomintroll Daydreaming)』。ムーミン生誕60周年を記念して、2005年に2005個限定で生産されたもの。なんと今、約50万円の価値があるそうです。
そのムーミンマグに描かれている絵柄から原作を読み解く本『ムーミンマグ物語』(※4)を手がけた萩原さん。オモテとウラで異なるマグの絵柄は一体どこから来ているものなのか?何度も何度も原作を読み、デザイナーさんに問い合わせたりして、当時発売されていた65個のマグを徹底的に調べあげたとか。
アレンジが多く、背景とキャラクターを新たに組み合わせているものもあるため、かなりの時間を費やしたそうです。ちなみに、萩原さんが持っていないムーミンマグは3個のみ。ほぼ全種類のマグを所有されています。
横川さんによると、ムーミンを商品化したアイテムの中でも、トーベが一番気に入っていたのがムーミンマグだったそうです。「アラビアのマグにムーミンがプリントされるなんてすばらしい!」とトーベは大変喜びました。最初のみ監修に入ったそうですが、その後は全てデザイナーに任せたといいます。
トーベの姪でムーミンキャラクターズ社のソフィア・ヤンソンさんも言っていたそうですが、その日、そのときによって、好きな話や好きなキャラクターが変わっていく・・・それが、何度も何度も読まれるムーミンの魅力なのではないでしょうか。ムーミンの原作をはじめ、さまざまなムーミン関連本が出版されているので、この機会にムーミン、原作者トーベ・ヤンソンの世界に触れてみてはいかがでしょう。
(※1)トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン(ボエル・ウェスティン著/畑中麻紀・森下圭子訳/講談社)
(※2)DVD『ハル、孤独の島』/『トーベとトゥーティの欧州旅行』
(※3)劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス
(※4)ムーミンマグ物語(萩原まみ著/講談社)
モラン。どちらが日本製で、 どちらがフィンランド製? |
ムーミンの「たいそうカード」! | ||
膨大なムーミン関連資料のファイルも公開! | 萩原さんのサイン会も行われました! |
参考リンク:
■ムーミン童話全集
■少女ソフィアの夏(渡部翠 訳/講談社)
■彫刻家の娘(冨原眞弓 訳/講談社)
■劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション
■ムーミンキャラクター図鑑(シルケ・ハッポネン著 高橋絵里香 訳/講談社)
■MOOMIN!ムーミン展
■生誕100周年 トーベ・ヤンソン展~ムーミンと生きる~